ほんとうのじぶん ―性同一性障害の子どもたち 1.出会い

神戸新聞
小4男児、「女児」で通学 性同一性障害

2006/07/31

 兵庫県播磨地域の小学二年の男児(7つ)が、心と身体の性が一致しない「性同一性障害」と診断され、学校側が「女児」として受け入れを認めているケースと同様に、県外の小学四年の男児(9つ)も、女児として通学していることが三十日までに、分かった。思春期の「第二次性徴」を控える年代としては異例だが、関係機関や専門家もこのような事例を把握できていないのが実情だ。成長するに従っての悩みなども増えることが予想されるため、両男児はこのほど、保護者も交えて対面。経験を話し合うなど情報交換した。
播磨の小2と対面
 小四男児の保護者や主治医によると、男児は四歳のころから女の子の言葉遣いをし、ままごとやぬいぐるみ遊びをした。保護者は「一過性のもの」と考えていたが、小学校入学を迎えても変わらなかった。
 母親は入学直後の保護者会で事情を説明し、その後、専門医を受診。小児性同一性障害と診断され、学校で女児としての扱いが認められた。
 男児は、トイレや水着も女児用を使用。名簿は男子側に並べられているが、一人だけ「さん」付けで呼ばれている。「オカマ」といじめられ、登校拒否をしたことも数回あったが、友達の女児らに支えられ、通学を続けているという。
 神戸新聞社性同一性障害の子どもたちを取材する過程で、小二男児、小四男児の双方が対面を望んだ。今後も電話や手紙を通じて交流を続け、互いの住居地を訪問することも計画しているという。
 全国の精神科医らでつくる「日本精神神経学会」の前理事長、山内俊雄・埼玉医科大学長は、「性同一性障害の当事者は、自分だけが特殊だと思っているケースが多い。親も、自分の育て方が悪かったのではないかと自分を責める。同じ悩みを持っている人がいると分かることは重要だ」と話している。(霍見真一郎)


http://www.kobe-np.co.jp/rensai/200607gid/
ほんとうのじぶん ―性同一性障害の子どもたち


播磨地域の小学二年男児が、性同一性障害と診断され、女児として通学していることを報じ、二カ月が過ぎた。
 「診断が早すぎたのでは」「親の育て方に問題はなかったのか」「高学年になったとき、学校の対応は」…。心身が性的に成長する思春期前だけに、反響は大きかった。その後も取材を続けた。県外に住む小学四年の男児に出会った。彼も入学直後から女児として受け入れられていた。こうした児童の数は、文部科学省も把握できていない。周囲はどう向き合えばいいのか。性同一性障害の子どもたちを各地に訪ねた。(霍見真一郎)


http://www.kobe-np.co.jp/rensai/200607gid/01.html
1.出会い (2006/07/31)
「統計」なく、貴重な友

フリルが付いた洋服や靴下。肩まで伸びた髪。あどけない二人は、握手すると、照れくさそうにほほ笑み合った。
 七月初旬。性同一性障害と診断され、女児として通学している兵庫県播磨地域の小学二年優(ゆう)(7つ)=仮名=は、数百キロ離れた地で、同じ障害に苦しむ小学四年の春(はる)樹(き)(9つ)=仮名=に会った。
 心の性と身体の性が食い違う性同一性障害。二人は女の子の心を持つ男の子だった。
 「同じような子どもがいるとは知らなかったし、そんな子が生きていること自体、感動した」と優の母。六月、取材で知った春樹の存在を伝えると、母子ともに「会いたい」と強く望んだ。
 優の障害について、親類や友達に相談したが、「理解してもらえることには限界があった」という。「当事者同士でなければ共感できないこともある。(春樹は)優と生涯支え合える友達だと思った」
    ◇   ◇
 春樹は、四歳のころから女の子言葉を使い、女児の服を好んだ。小学校の入学式こそ「戸籍上は男だから」と男児の格好で出席させられたが、翌日から女児の服で通学。母が保護者らに事情を説明し、女児として暮らしている。
 昨年引っ越したときには、同じ小学校へ校区外通学するため、役所に出向いた。提出書類の理由欄に診断されたことを書き、性別を記入しようとすると、春樹が「絶対男に丸を付けないでよ」と言った。母は「これは正式な書類だから」と、男に丸をした。書類が職員に渡るのを見た春樹は「男じゃない」と泣いた。
 「分かったよ。ここは消すからね」。職員は、春樹の目の前で丸を消したが、母に許可を取り、春樹から見えない所で再度書き入れた。母が「こういう児童はほかにもいるんですか」と聞くと、「ええ、いますよ」。職員は、あっさり答えた。
 国内で、性同一性障害の子どもに関する統計資料はない。だが、岡山大学医学部の調査では、同学部ジェンダークリニックを受診した六百三十一人の性同一性障害者のうち、四百九十六人(約79%)が、小学校高学年までに性別の違和感を自覚していた。
 教育行政の記録に、そういった子どもたちが登場することはほとんどない。優の受け入れについても、当初は地元の教育委員会から県教委への報告はなく、春樹の場合は学校内だけで処理された。
 性同一性障害の子どもへの対応は、プライバシーへの配慮もあり、外には出にくい。保護者が情報交換する窓口は、ほとんどないのが実情だ。
    ◇   ◇
 二人の母は、子どもたちの学校での生活ぶりなど、三時間にわたって話し合った。最初は人見知りしていた優と春樹も、トランプ遊びですっかり打ち解けた。また会うことを約束し、駅の改札で、手を振って別れた。
 優の母は帰宅後、春樹の母からメールが入っていることに気付いた。
 「あまり頑張りすぎないで」
 同じ子を持つ母の言葉は、張り詰めた心に優しく染みわたった。