老年期における性同一性障害


 性同一性障害とは自己の身体的性別(sex)と性自認(gender identity)が一致しないことに苦悩する疾患である。加齢によっても性自認は変化しないといわれる。しかし、臨床的には、性同一性障害において、加齢は影響を与えうると思われる。
 性同一性障害FTM(female to male:女性から男性になろうとするもの)の受診年齢層は、20歳代に受診のピークがあり、30歳代、10歳代がそれに続く。50歳以上の受診者はまれである。一方で、MTF(male to female:男性から女性になろうとするもの)では、30歳代に受診のピークがあるが、幅広い年齢層が受診する。50歳を超えるものもまれではない。新聞報道によれば、79歳のMTFが、性同一性障害者として、診断治療を受け、戸籍の性別を男性から女性に変更したという。
 このMTFFTMの受診年齢層の違いについてはいくつかの理由が考えられる。まず女性においては、閉経とともに、月経が終わり、生殖の可能性もなくなり、女性としての生物学的特徴が薄らぐ。一方で男性では、勃起・射精機能は衰えながらも維持される。また社会的にも、女性においては20歳代30歳代は、結婚適齢期、出産適齢期であり、周囲からの女性として役割を求められる重圧は強い。しかしながら、年齢とともにそういった重圧は減ってくる。一方で男性においては、職場においても、家庭においても、加齢とともに男性としての性役割は、増えることはあっても減ることはない。
 すなわち、女性においては、生物学的にも社会的にも20歳代30歳代では女性であることを強く意識させられるが、加齢ともに減少していく。それゆえにFTMは高年齢になると、女性としての性別違和が減弱していく。その結果、FTMでは高年齢になると、医療機関を受診するものがほとんどいなくなるのだと思われる。一方で男性においては、年齢を重ねていっても男性であることの意識は続き、MTFの性別違和は減弱しない。そのため、高齢者のMTFにおいても医療機関を受診するものもまれではないのだと思われる。