老年期における同性愛


 同性愛とは、どの性別に性的魅力を感じるかという「性指向」(sexual orientation)が同性に向くものである。性指向は、思春期に一時的に本来異性愛のものが同性愛になるなどの揺らぎはある場合もあるが、基本的には生涯を通じて変化はない。すなわち同性愛者は高齢になっても、同性愛指向であるということだ。
 高齢の同性愛者についてこれまで論じられることは乏しかったと思われるが、本稿では、孤立化の問題と、self esteem(自己評価)の問題の2点を論じる。
 第一は孤立化の問題である。同性愛者も異性愛者と同じく、愛情のあるパートナー関係を持ちたいと思う。実際、同性愛者の集う町のエリア(東京であれば新宿二丁目など)、パートナーや友人を探せる雑誌や同人誌、最近であればインターネットや携帯電話の出会い系サイトなどで、同性愛者はパートナーを見つけることができるようだ。しかしながら、これらの出会いの場やツールは、多くの場合に、若者がその対象である。したがって、高齢になると、このような出会いの機会は減少するのである。また、異性愛者であれば、結婚によって法的にも社会的に安定しやすいパートナー関係を築きやすく、高齢になっても長年連れ添った配偶者と過ごすことができる。一方で、結婚制度がない同性愛者においては、パートナー関係は不安定なものになりやすく、若いころ出会ったパートナーと長年連れ添うのは難しい面もあろう。このようなことから、高齢の同性愛者はパートナーを持つことができず、愛情関係においては孤立化することも多いと思われる。
 第二はself esteem(自己評価)の問題である。同性愛はかつて精神疾患として扱われていた。1973年、米国精神医学会の理事会はDSM-II(精神障害のための診断と統計の手引き第2版)から同性愛を削除することを承認した。WHO(世界保健機構)も、1992年ICD-10(国際疾病分類第10版)において「同性愛はいかなる意味でも治療の対象とはならない」という宣言を行った。これらの経過を経て、同性愛は現在は一つの性指向のあり方として認められ、医学的治療対象とはされていない。このような時代的流れの中、現在の同性愛者は自分たちをゲイ(男性同性愛者)、レズビアン(女性同性愛者)として、肯定的に自己を捉えるものが増えてきている。しかし、このように積極的に自己肯定できるのは、ゲイ・レズビアンが市民権を得てから青年期を過ごしたものたちが主のようである。すなわち、青年期を「精神疾患」としての同性愛者として過ごした、現在の高齢同性愛者たちは、かならずしも自己の同性愛性指向を肯定的に捉えられないのではないだろうか。
 以上まとめると、老年期の同性愛者たちは、孤立化やマイナスの自己評価という問題を抱え、このことがQOLを損なっている可能性があろう。