セクシュアル・マイノリティへの心理的支援―同性愛,性同一性障害を理解する

無事本日発売されたので、しつこく紹介。


セクシュアル・マイノリティへの心理的支援―同性愛,性同一性障害を理解する
針間克己,平田俊明,編
石丸径一郎,葛西真記子,古谷野淳子,柘植道子,林 直樹,松高由佳 著


>セクシュアル・マイノリティとは、同性愛、両性愛性同一性障害など、典型的なセクシュアリティとは異なるセクシュアリティのあり方を示す人々のことをいう。セクシュアリティのありようが少数派であるがゆえに、偏見にさらされ、生きづらさを抱えることも多いため、セクシュアル・マイノリティの人たちの心理的支援へのニーズは、顕在化しにくいが多大にある。人口の数%程度を占めるといわれる彼・彼女らに、臨床の場においてもそうとは知らずに出会う可能性、もしくは出会っている可能性は大きい。多様なセクシュアリティを示す人々を理解し、受け止め、支えるための1冊。


http://www.iwasaki-ap.co.jp/2014/08/post_310.html
目次

セクシュアル・マイノリティへの心理的支援

―目次―

第I部 セクシュアル・マイノリティの基本概念と歴史
 第1章 セクシュアリティの概念
 第2章 レズビアン,ゲイ,バイセクシュアル支援のための基本知識
 第3章 性(セクシュアリティ)のイメージ―結合と分離
 第4章 セクシュアル・マイノリティの自尊感情メンタルヘルス
 第5章 精神医学と同性愛
 第6章 日本における「同性愛」の歴史
 第7章 性同一性障害トランスジェンダー,性別違和
 第8章 性同一性障害の概念と臨床的現状
 第9章 DSM-5のGender Dysphoria:性別違和

第II部 セクシュアル・マイノリティへの心理的支援の実際
 第10章 児童期・思春期のセクシュアル・マイノリティを支えるスクールカウンセリング
 第11章 セクシュアル・マイノリティ大学生を支える学生相談
 第12章 成人期から老年期のレズビアン,ゲイ,バイセクシュアルの課題
 第13章 ゲイ/レズビアンのライフサイクルと家族への援助
 第14章 HIV感染症とゲイ・バイセクシュアル男性への心理臨床
 第15章 性同一性障害の精神療法
 第16章 思春期の性同一性障害の学校現場における対応
 第17章 性同一性障害者の家族への対応

第III部 心理職の訓練と果たすべき役割
 第18章 心理職へのセクシュアル・マイノリティに関する教育・訓練
 第19章 性同一性障害:心理職の果たす役割
 第20章 心理職のセクシュアリティについての価値観がセラピーに及ぼす影響


>このたび,平田俊明先生と共編で,本書を発行することになった。同性愛や性同一性障害を扱った本はそれなりにあるが,心理的支援に焦点を絞ったものは本邦では少ないものだと思われる。同性愛,性同一性障害それぞれに理由がある。同性愛は,かつて精神疾患であったのちに,精神疾患リストから外れたという歴史的経緯がある。そのため,そのメンタルヘルスについて論じることは,精神疾患との関連性を想起させるのでは,と専門家の間でためらいがあるのではなかろうか。しかし,メンタルヘルス精神疾患のあるなしとは関係なく,すべての人間がケアすべき課題である。まして偏見の根強い同性愛者にとってはなおさらのことだと思われる。つい最近も,元水泳選手の金メダリスト,イアン・ソープが自分は同性愛者だとカミングアウトしたというニュースがあった。私はそのニュースを聞いて正直驚いた。ソープが同性愛者だったから驚いたのではない。それをオープンにできずに悩んでいたことに対してだ。ソープの住むオーストラリアは,LGBTの盛大なパレードが開かれるなど,世界的にも同性愛に理解がある国である。そのオーストラリアにおいてすら,同性愛をオープンにすることは容易なことではないのである。そのストレスの結果,ソープはアルコール依存や抑うつに苦しみ,入退院を繰り返していたという。社会の偏見のもたらすメンタルヘルスへの悪影響はそれほど強いのであろう。
性同一性障害への心理的支援に焦点を絞った書籍が少ないのは,「性別適合手術」や「戸籍の性別変更」といった,身体治療や法的問題に注意が向かいがちだからである。もちろん,身体治療や法的問題も重要ではあるが,心理的側面も同様に重要である。特に最近では性同一性障害概念が広がりを見せており,必ずしも身体治療を求めず性別違和を訴える者も増えているので,なおさらである。
本書の同性愛,LGBに関する章の執筆陣は,平田先生を中心に,現場の第一線で取り組んでおられる先生がたに担当していただけた。いずれも空疎な理論に走ることなく,実際の経験に裏付けされた,リアルな言葉で書かれた論文である。
性同一性障害は一章を石丸径一郎先生にお願いし,残りの章は私一人で書かせていただいた。何人かで分担した方がよりよいものができたとも思うが,自分自身で書きたいこともたまっていたので,わがままを通させてもらった。「トランスジェンダー」としてではなく,もっぱら「性同一性障害」として論じたことは批判を受けるかもしれない。「トランスジェンダー」と「性同一性障害」の概念の関係性は,本書の中でも詳しく論じたが,平たく言えば,「トランスジェンダー」のほうが幅広く,疾患でないものも含むのに対し,「性同一性障害」はより狭く,疾患であるものを指す。「トランスジェンダーで,メンタルヘルスが悪く,心理的支援を要するものは性同一性障害となる」,というロジックで性同一性障害という言葉に統一したが,厳密には「性同一性障害には当てはまらないが心理的支援を要するトランスジェンダー」という人もいるであろう。そのあたりの議論が欠如したことはご容赦いただきたい。
最後になるが,本書では同性愛と性同一性障害,あるいはLGBTをまとめて一冊の本で論じた。同性愛と性同一性障害は,共通な部分もあるし,違う部分もある。両者をともに知ることがセクシュアリティに対する複眼的視座をもたらし,その理解が広がりと深みをもつことになると信じる。本書が,メンタルヘルスに関わる人々の手元におかれ,日本の多様なセクシュアリティをもつ人々の支援の一助になれば幸いである。
(針間克己/あとがきより抜粋)

セクシュアル・マイノリティへの心理的支援―同性愛、性同一性障害を理解する

セクシュアル・マイノリティへの心理的支援―同性愛、性同一性障害を理解する