自己受け入れる手助けを 思春期の性同一性障害 

神戸新聞

http://www.kobe-np.co.jp/news/iryou/0004157257.shtml
自己受け入れる手助けを 思春期の性同一性障害 


 性同一性障害GID)のため今春から女子として中学校に通う兵庫県播磨地方の男子生徒に対し、抗ホルモン剤の投与で第2次性徴を抑える治療が今年2月、大阪医科大ジェンダークリニック(大阪府高槻市)で始まった。このほど東京都品川区で開かれたGID学会研究大会のシンポジウムでは、男子生徒の主治医が経緯を説明。同様に思春期を迎えたGID患者への対応をめぐり、医療や教育、親の立場から現状が報告された。


 播磨地方の男子生徒は小学校入学時から女児として通学。中学校進学を前に抗ホルモン剤を定期的に投与し、思春期の体の変化を一時的に止める治療を始めた。

 抗ホルモン剤は、医療機関が小児GID患者に投与するのは全国初とされるが、低年齢で第2次性徴が始まる「思春期早発症」患者にも使われてきた。男子生徒の主治医を務める大阪医科大の康純(こう・じゅん)准教授は、過去に副作用の症例はほぼないとしつつ「国内の使用例は少なく、今後も検査などで慎重な観察が必要。投与期間や金銭面の負担も課題になる」と訴えた。

□自殺願望 第2次性徴を迎えるGID患者の中学時代について、GID学会理事長の中塚幹也岡山大教授は「制服や恋愛の問題などに悩み、自殺願望が高まる」と指摘。小学生の頃に心と体の性の不一致を周囲に打ち明ける「カミングアウト」をしていなかったことに対し、後になって大半の患者が後悔している‐との調査結果を示し、「周囲が(GIDの兆候に)気付いてあげることが重要だ」と述べた。

 女性の心を持つ別の男子中学生の母親、豊島久恵さんは「声変わりなどで、本人が希望する体の状態とはかけ離れる。他人の視線が気になる時期とも重なり、大変な苦しみを味わう」と強調。「親は(子どもがGIDだということに)後ろめたさを抱くのではなく、子どもの人間性を認めるべきだ」と力を込めた。

□未来の希望 GID患者を厳しい状況が取り巻く中、川崎市立富士見中学校の青山正彦校長は、同市役所に勤務していた昨年5月、精神保健福祉センター児童相談所などにGIDの相談窓口を開設したことを報告。「GIDの悩みを安心して話せる公的な機関が(各地で)必要だ」と語った。

 大阪医科大の臨床心理士、二宮ひとみさんは「患者には過度に価値観を押しつけるべきではなく、ありのままの自己を受け入れられるような援助を」とし、GIDの生徒同士の交流会を企画している京都府立高校教諭の土肥いつきさんは「つらい過去ばかりに触れず、進路など未来の希望を聞いてあげれば、子どもは前向きな気持ちになれる」と話した。

佐藤健介)

(2011/06/10 11:00)