ストレスコーピングインベントリーにみる性同一性障害患者のストレスコーピング戦略

岡山大学精神科の松本洋輔先生のご論文「ストレスコーピングインベントリーにみる性同一性障害患者のストレスコーピング戦略」拝読。
精神神経学雑誌 第112巻第12号(2010)1177-1184


「ストレスコーピングインベントリー」という評価尺度を用いて、GIDのストレス対処パターンを調べたもの。
この尺度ではストレス対処パターンが、「肯定評価型」とか「逃避型」とか8種類に分類される。
残念なことに、非GIDの人の対照統計がないため、比較して、GIDはどのパターンが多いというのは分からず。
MTFFTMの比較では、FTMのほうが「肯定評価型」「離隔型」というのが多かった。
ただ私の印象としては、そんなに違いないなという感じ。
患者の背景の違いによっても、あまり大差ないのが意外だった。
治療段階別でも差異は見られていない。
ただ個人的感想としては、初診時の治療段階ではなく、初診時未治療の人たちを対象に、数年後治療に進んだ群と進まなかった群では、ストレス対処パターンに違いが出る気もする。
ただそういう調査は、現実問題としては非常に困難ではあろうが。


個人的にこの論文で一番印象に残ったのは、本筋と違う個所だが、受診者で、FTMMTFより多い点を考察していたところ。
日本でFTMが多い理由は謎なのだが、医学文献で考察していたのは初めて見た。

P1182
>これには日本における性別適合手術をめぐる問題がある。海外渡航手術を含めて日本人患者はMTFに対する造腟術は比較的容易に受けることができるが、FTMに対する陰茎再建の行える施設は海外も含めてかなり限られるということである。研究期間中、関西より西で陰茎再建が行える唯一の施設が岡山大学病院だったことが、患者の受診行動に影響してる可能性が高い。


とあり、正直なところ、意表を突かれた。
FTMは日本のどの医療機関でも多く、岡山大のFTM227、MTF117名が、日本の他の医療機関と比較し、突出してFTMが多いとも思えない。
私のところもFTMが多数だが、陰茎再建を強く望むものはそれほどはいない。
治療との絡みでいえば、MTF個人輸入でホルモン療法が可能だが、FTMは注射なので、ホルモン療法を医療機関に頼らざるを得ないというのが大きいと思っていた。
しかしながら、陰茎再建可能な岡山大ではFTMの多くが陰茎再建を望んでいるというのが、臨床現場の実感なんだろうな。うーむ。