juvenile gender dysphoria 年少者の性別違和

  
Principles of Transgender Medicine and Surgeryより
(訳 by AJ)
P84-86
年少者の性別違和
大人のトランスセクシュアルは、しばしば、自分の性別違和は、思春期の前の人生早期において開始したと想起する。実際のところ、ジェンダーアイデンティティの問題を持つ子どもへの関心は、医学的・心理的専門家たちの間で強まっている。信頼できる統計の示すところでは、小児期に、反対の性別行動を示す子どもの20%が、青年期において、トランスセクシュアルとしての自己認識を持つ。より多くの場合、反対の性別行動の結果は、トランスセクシュアルになる代わりに、同性愛指向を持つことになる。しかし、異性愛指向を持つ者もいる。性別違和の問題が持続し、専門家の援助が受けられる場合、およそ66%のものがホルモンの治療を受けることになる。残りの者は、精神療法といった、そのほかの治療を、性別違和や関連する諸問題に対処するために受けることになる。
 ある専門家の意見では、小児の反対の性別へのアイデンティティが、その後の発育後にも変わることがないのであれば、一度発達してしまうと、その後にホルモン療法をしても部分的にしか元に戻らない「あやまった」二次性徴の発育という拷問から、治療によりのがすことができる。治療を受けた、年少者トランスセクシュアルのグループへの追跡調査によれば、明白な身体治療の有用性が示された。思春期のホルモン上の変化を止める内分泌学的治療に関しては、批判が存在する。生まれつきの性別での思春期の発育の経験を失わすことになる、と議論する者もいる。しかし、実際には、この内分泌学的治療により、年少の患者は、詳細な心理学的評価を継続しようという動機を得て、性別違和からの解放を入念に観察される機会を得る。この性別違和は二次性徴が継続した場合には強い苦悩の原因となる。
 専門家及び非専門家の間には、年少者へのホルモン治療に対して、大人への治療以上に、強い懐疑がある。それゆえ、身体治療を行う医師は、メンタルヘルスの専門家とともに治療をおこなうことが義務である。性別違和を持つ年少者へのホルモン療法の合理的根拠は、大人に対してのものと類似している。指標は、内分泌病理学の伝統的概念に依るものではなく、むしろ性別違和による苦悩状況の緩和に目的がある。
 性別違和は、ほとんどの健康専門家にとり未知の「診断」であるため、「間違った体にとらわれている」という概念は、一見したところ妄想や思い違いに思える。しばしば、身体治療を行う医師は、患者の妄想を助長しているように見なされる。苦悩状況と関連する生活状態の本質を理解するためには、性別違和を抱える人物と、一対一で向かい合い話をすることが、必要不可欠である。
 臨床医学は真空の中で行われるのではない。エビデンスに基づく方法で医療をおこなうのであれば、治療法の決定過程において、患者の苦悩の個人的な語りが必要不可欠な要素となる。身体治療の客観的な基準は、患者がDSM-IVの診断基準を満たし、心理学的に安定し、生まれの性別から望みの性別への移行を支持する環境の中で生活していることだ。
 一般的には、反対の性別への完全な移行を、バランス良く責任を持ち決定するためには、思春期は早すぎる時期だと感じられる。仲裁的解決策として、LHRHアンタゴニスト/アゴニストのデポ剤は、思春期早発症の子供に使用するのと同様に、中枢性の思春期発達の結果、性成熟の明白な徴候が明らかになった時(われわれのクリニックではTanner2のステージに達した後 )には用いることができる。Tannerのステージ2は、男子では精巣が4ml以上の大きさに成長した時と定義される。女子では触診可能なふくらみと乳輪の拡大が伴う、乳房成長の開始、として定義される。どちらの性別においても、測定可能な性腺の性ホルモン産生があるべきだ。
 LHRHアゴニストにより、ホルモン上の思春期発達が抑制され、患者は思春期のままとどまることになる。結果として、さらなる成長発達や、さらなる骨量増加はない。将来の反対の性ホルモン投与が、さらなる成長や骨量増加を引き起こすと想定することは、道理にかなっている。
 内分泌学上、注目すべき点は、思春期における骨生理学上の変化の多くは、エストロゲンを介して引きおこされることだ。男子ではこの変化はテストステロンから誘導されたエストロゲンによって引き起こされる。それゆえ、年少者のMTFTSでは、この点において、将来のエストロゲン治療によって、恩恵を受けやすい。Tannerのステージ2ののちに思春期を止め、そののちに年少者のトランスセクシュアルに反対の性ホルモンを投与する事の結果は、現在いくつかのセンターで解析されており、報告を待っているところだ。この種の治療は、経験を積んだ内分泌科医により、プロトコールに従って、実行されなければならないことは明白に思える。それゆえ、このデリケートな治療の経験は、系統だって集積することが可能だ。身体測定、骨密度測定、脂質等の代謝測定、インシュリングルコース、骨代謝が、心理学的検査とともに、フォローされるべき項目だ。

Principles of Transgender Medicine and Surgery (Human Sexuality (Hardcover))

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