成人と思春期の性同一性障害者へのホルモン療法5

MTFへのホルモン療法の結果
MTFへのホルモン療法の結果は次の通り
体毛。
体毛の成長の減少が起こる。体毛は細く、色は薄くなる。しかし、成人のひげの成長は、抑制に強く抵抗する。抗アンドロゲン剤とエストロゲンを共に使った場合でもだ。白人においては、顔の毛を除去するには、電気脱毛やレーザー脱毛といった、別の方法も用いる必要がある。体のほかの部分の体毛は、ホルモン療法に良好に反応し、通常、ホルモン療法の1、2年後には、著明に減少する。
乳房の発育。
乳房の発育は、ホルモン療法開始後、ほとんどすぐに始まり、成長期と平坦期とともに進展する。アンドロゲンは、乳房発育に抑制的効果を有するため、エストロゲンは、低アンドロゲン環境下で最も有効だ。これは、通常、酢酸シプロテロンやスピロノラクトンエストロゲンと共に用いることで達成される。十分なホルモン療法の開始後、2年たつと、さらなる乳房の発育は期待できない。年配者でも、十分な乳房の発育は阻害される。ホルモン療法患者の約40から50%が、乳房発育に満足している。しかし、残りの50から60%のものは、乳房の発育は不満足と判断している。得られる乳房の大きさは、それ自体がホルモン療法の成功の尺度となるが、MTFの高身長や胸郭の大きさと比し、しばし不釣り合いなものとなる。不満足なものは、豊胸術をしばし求めることになる。
肌。
アンドロゲンの抑制は、皮脂腺活動の減少をもたらし、結果的に乾燥肌や、もろい爪となり、合成洗剤使用をひかえ、保湿クリームの使用が必要となることもある。
身体組成。
アンドロゲン抑制後、皮下脂肪が増大し、やせた身体組織が減少する。通常、体重は増加するが、食事療法でコントロール可能だ。
精巣。
ゴナドトロピン性の刺激が欠如するため、精巣は委縮する。まれな例では、鼠径管に精巣が入り、不快の原因となる。
前立腺
アンドロゲン抑制により、前立腺は委縮し、膀胱頚部の解剖的条件に変化が起きる。その結果、排尿後、一過性の尿漏れが生じることもある。この症状は通常、1年以内に消失する。
声。
抗アンドロゲンとエストロゲンは、声の性質には影響を与えない。MTFボイストレーニングの専門家への相談を希望するかもしれない。声の男性性は、声のピッチによってのみではなく、胸部の反響と大きさによっても、決定される。ボイストレニーングによって、より女性らしい声と話し方を得ることが可能だ。喉頭部の手術は、声のピッチの変化は可能だが、その幅も減少させる。
長期の治療。
精巣摘出を含む、性別適合手術後も、ホルモン療法は継続しないといけない。男性型の体毛成長を示す患者もいて、経験の示すところでは、それに対しては、少量で済むが、抗アンドロゲンが相変わらず有効だ。エストロゲンの継続は、骨粗鬆症といった、ホルモン低下の症状を予防するために必要だ。我々の知見では、エストロゲンのみで、MTFの骨量の維持は可能だ。血中LH濃度と骨の無機質濃度との間には、負の相関関係がある。このことは、血中LHは、性ホルモン投与の適切さの指標となりうる事を示唆する。今のところ、何才までホルモン療法を継続すべきかについては、コンセンサスはない。性同一性障害者は、通常、ホルモン療法を、老年になっても継続したがる。この治療指針を支持するデータも反対するデータもない。おそらく閉経後にホルモン補充療法を行う女性から、類推は可能だろう。しかし、その指針では、50台後半ではほとんど治療を行わない。