成人と思春期の性同一性障害者へのホルモン療法4

MTFのホルモン療法

MTFにおいては、体毛の除去、乳房肥大、女性的な脂肪分布が必要不可欠だ。これらの目標を達成するためには、もともとのアンドロゲンの影響をほぼ完全に減少させることが必要だ。エストロゲン単独の投与で、ゴナドトロピン放出の抑制を来たし、そこからアンドロゲン産生の抑制も起こす。しかし、アンドロゲン分泌および作用を抑制する物質と、エストロゲン供出する物質をともに使用することは、より効果的だ。アンドロゲン分泌および作用を抑制するには、いくつかの薬物が使用可能だ。ヨーロッパでは、最も多く使用されるのは、酢酸シプロテインだ(通常1日に50mg)。これは抗アンドロゲン作用のある、黄体ホルモン性の物質だ。酢酸シプロテインが使用できない場合は、酢酸メドロキシプロゲステロン、1日5から10mgが、代用として用いられる。非ステロイド性の抗アンドロゲン剤、フルタミドやニルタミドも用いられるが、これらは、ゴナドトロピンの分泌を増大し、テストステロンとエストラジオールの分泌増大の原因となる。エストラジオールの増大は、女性化の効果があるゆえ、ここでは望ましいことだ。スピロノラクトン(1日100mg2回まで)は、抗アンドロゲン作用のある利尿剤で、広く利用可能だ。長期作用性のGnRHアゴニストは、月に一度の注射で、ゴナドトロピン分泌の抑制をもたらす。フィナステリド(1日5mg)は、5-アルファ還元酵素の阻害剤で、薬理学的作用からは、テストステロンから5-アルファテストステロンへの変換を抑制すると思われる。この薬剤は、抗アンドロゲン剤とエストロゲンなどの薬理的介入により、テストステロンが既に抑制されている時は、あまり役に立たない。


エストロゲン

選択可能な広範なエストロゲン剤がある。経口エチニルエストラジオール(1日50-100µg)は強力で安価なエストロゲン剤だ。しかし、血栓症を引き起こすリスクがある。とくに40才以上でだ。MTFから求められる量で使用すべきではない。経口の17βエストラジオール吉草酸(1日2から4mg)、経皮の17βエストラジオール(1週に2回、100µg)も、治療の選択肢で、エチニルエストラジオールよりはるかに血栓症のリスクが低い。多くの性同一性障害者は、注射によるエストロゲン投与を好む。高濃度のエストロゲン循環をもたらすからだ。しかし、使用量過多のリスクがあり、エストロゲンをやめるべき緊急事態が発生した場合、デポ剤のエストロゲンの長期効果を除去することは不可能だ。
黄体ホルモン作用物質が、MTFの女性化過程に、効果を加えることを示唆する証拠はない。女性の生殖内分泌学的には、黄体ホルモンは、子宮を妊娠に、乳房を乳汁分泌に準備させる。エストロゲンに黄体ホルモンを加えることは、女性化において必要だと、強く確信している患者もいる。そういった患者には、その確信は事実でないだけでなく、黄体ホルモン作用物質は、高血圧や、静脈瘤といった副作用が起こる可能性があることも伝えるべきである。女性における、閉経後のホルモン剤使用の多数研究によれば、エストロゲンと黄体ホルモン作用物質を共に使うことは、乳がんと心血管系の発生率の上昇に関連すると思われる。この結果は、使用に反対すべき、さらなる理由となる。