「同性愛者における他者からの拒絶と受容―ダイアリー法と質問紙によるマルチメソッド・アプローチ」

 特筆すべきは、この本は「シリーズ・臨床心理学研究の最前線 1」として出版されたということだ。すなわち、シリーズ監修の下山晴彦教授の言葉を借りれば、「臨床心理学における良質の博士論文を厳選し、書籍として公表するシリーズ」の第一段として本書は出版されたのである。
 では、どういった点が良質なのだろうか。
 まず第一にはその目標が挙げられる。同性愛などの従来の研究においては、異常であるという前提から、その原因論を調査するといったものが主体であった。しかし、本研究では、同性愛者をいかにサポートするという視点から、同性愛者がどのような世界を生きているかを示し、他者からの拒絶と受容と、自尊感情との関係を分析している。
 次にその研究の方法論である。従来の心理学研究にありがちな、エビデンスの乏しい、教義や理論の独りよがり的な主張ではなく、あくまでも具体的なデータを集積することで、その研究を行っている。その収集方法も、文献調査、質問紙法、ダイアリー法、実験法など多様な方法であり、分析も質的研究法と量的研究法で行っている。このような多様な方法を用いることで、それぞれの短所を補い、より価値の高い研究となっている。
 こういった、目的、方法でなされ、そこで得られた結果もまた有意義なものである。結果は箇条書きすると以下のようなことだ。
・日本においてもLGBへの拒否的態度が見られること。
LGBTに知り合いのいないもの、男性、伝統的性役割態度のもの、で特に偏見が強いこと。
・LGBは「こっちの世界」(同性愛者の世界)と「あっちの世界」(異性愛者の世界)の2つの世界を生き分けていること。
・「あっちの世界」ではネガティブな経験が多いこと。
・「他者からの受容感」は自尊感情への強い影響があること。
異性愛者と比較してLGBは「他者からの受容感」の自尊感情への影響がより強いこと。
・性指向自体の受容は、自尊感情への強い影響は示さないこと。
などである。

このように本書は、心理学研究としても、LGBサポートの指針を示唆したという点でも、すばらしい一冊である。