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newsそれから:性同一性障害・森村さんに1日密着 /奈良
性同一性障害(GID)の森村さやかさん(46)=通称、生駒市=が今月、戸籍上の性別を男性から女性に変更するよう求めて最高裁へ特別抗告した。森村さんが昨年11月、奈良家裁に申し立てた時から、私は取材を続けてきた。森村さんはどう生きて、なぜ戸籍変更が必要なのか、先週末、森村さんに密着して考えてみた。【高瀬浩平】
◇戸籍の性別変更「子なし要件」ネックに
◇普通の暮らし、周囲の理解必要
午前9時、森村さんは黒のスカートスーツ姿で待ち合わせ場所の近鉄生駒駅にやって来た。身長160センチ。黒い長髪。ヒール付きの靴、胸元には銀色のペンダント。
森村さんの申し立てを棄却した大阪高裁から届いた郵便物を受け取るため、近くの郵便局へ。郵便物を受け取る際に使った運転免許証を見せながら森村さんは「もし免許証に性別欄があったら困る」と言った。性別と外見が一致せず、不審がられることがよくあるという。
駅に戻り、電車で大阪府内へ。7月20日から5日間、大阪市北区角田町5のヘップ・ホールで開かれる映画祭のパンフレットの発送準備のため、実行委員長の武永真さん(23)=通称=の自宅へ。女性として生まれた武永さんは今、男性として生きている。映画祭では、武永さんたちのように、生まれた時の性別と異なる性で生きる「トランスジェンダー」と呼ばれる人たちをテーマにした欧米や日本の映画を紹介する。
武永さんは「両親は僕がいつか女の子に戻ると思ってる」と言い、森村さんは「母は兄弟に私のことを、お姉ちゃんと呼ぶのがキツイみたい」と返した。家族の人間関係は微妙で複雑だ。
最寄り駅に戻り、森村さんは駅前で受け取った美容室のチラシを私に見せた。電車に乗り込みながら「昔は私にくれるかなと試してた。満員電車が怖くて帽子にサングラス。今は全然ない」と笑った。その差は何か。森村さんは「自分に自信を持てるようになった時、周りの目が変わった気がした」と言う。
JR大阪駅構内で、神戸家裁尼崎支部に戸籍の性別変更を申し立てた大迫真実さん(51)=通称、兵庫県尼崎市=と、GID問題に詳しい九州国際大法学部の大島俊之教授(59)=民法=らと合流、近くの飲食店で約3時間話した。
大迫さんには子どもが1人いて、GID特例法の「子なし要件」が戸籍の性別変更のハードルとなっている。大迫さんは「埋没する人がいるんです」とつぶやいた。「マイボツ?」と私が聞き直すと、こう続けた。「若い人は手術ができるし、子どもがいなければ戸籍をさっさと変えちゃう。過去を封じ込めて、引っ越して、友人関係も切っちゃう。だから運動が盛り上がらない」
大島教授は「この人たちは見捨てられた世代。司法手続きを最後の最後までやって、政治家に子なし要件の改正を要望していこう」と笑顔で2人に語りかけた。
大阪市内で用事を済ませ帰途に着いた。電車の中で森村さんに「性の移行」のきっかけを聞いてみた。「コップの水があふれる感じ。結婚すれば治るかもしれないと思ったけど、うまく夫の役を演じられなかったから」
午後9時ごろ、電車は近鉄生駒駅に着いた。森村さんはホームで「緊張する」と周りを見渡した。森村さんは外見も心も女性。それでも普通に暮らすことはまだまだ難しそうだ。近くにいる人の理解こそが必要だと思った。
毎日新聞 2007年6月23日