育児ノイローゼと完全母乳

最近2例立て続けに、育児ノイローゼの母親を診察。
共にこういうケース。


・ 子どもは生後約6ヶ月。
・ 完全母乳で育てている。
・ 育児に疲れ、抑うつ、不安、動悸など出現。
・ 完全母乳のため、授乳による子どもの影響を心配し、薬物療法が困難。


で、思ったのが、「育児ノイローゼと完全母乳に高い相関がある」という仮説。
しかし文献を調べたのだが、良く分からない。
その理由として、


1.「育児ノイローゼ」という医学的概念が不明。
精神医学的には「産後うつ病」という概念はあって、それに近いとは思うが、ちょっと違うとも思う。
2.「完全母乳」と「時々ミルクも上げてるけど、ほぼ母乳」の区別が統計的に良く分からない。
がある。
ちなみに。
・日本では「母乳育児」の割合はほぼ40%。
・「母乳(breast feeding)は産後うつ病(postpartum depression)のリスクファクターではない」という論文はあり。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?cmd=Retrieve&db=pubmed&dopt=Abstract&list_uids=7645646&query_hl=1&itool=pubmed_docsum


というわけで、「育児ノイローゼと完全母乳に高い相関がある」という仮説のエビデンスは今のところ不明だが、考察的には理由はいくつか考えられる。


・ 「完全母乳」を選択する母親は「完全な母親であろう」という思いが強く、完ぺき主義、強迫的であり、もともと性格的に抑うつをきたしやすい。
・ 完全母乳であるため、夫や親や保育所などに育児をゆだねることができず、過度な負担が強いられる。
・ 昔と違い現在では、授乳を公園等の公共の場で行うことができず、そのため完全母乳だと、公園等の外出もままならず、子どもとふたりで部屋にこもってしまい、ストレス発散ができない。


というわけで、完全母乳は、母親のメンタルヘルス的には余りよくないと思う。
母乳による、子どもへの心理的プラスの効果を否定するわけではないが、それについては、時々ミルクをあげたところで、大勢に影響はないのではないか。
なのに「完全に母乳でないといけない」「完全母乳こそが正しい母親のありかた」というプロパガンダは、根拠に乏しい、変な宗教のような考えだと思う。