全国人権・同和教育研究大会閉幕 「新たな人権」を提起

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全国人権・同和教育研究大会閉幕 「新たな人権」を提起


 宮崎県内の3市で開かれた「第57回全国人権・同和教育研究大会」(全国同和教育研究協議会など主催、西日本新聞社など後援)は28日、3日間の日程を終え閉幕した。障害者やハンセン病などさまざまなテーマへの取り組みが報告される中、特に注目を集めたのが「性の多様性」を訴えた高校教諭の講演。現代社会に求められる「新しい人権問題」の一断面として取材した。 (社会部・東憲昭)


 「男として生まれたけれど、小学生のころから手作りスカートをひそかにはいていました」

 京都府立高の数学教諭土肥いつき(旧謙一郎)さん(43)は、自らの「トランス・ジェンダー(TG)」体験を打ち明けた。通路にも座り込んだ千人を超す参加者はじっと耳を傾けた。

 TGは、肉体的な性を超えて生きようとすること。異性の服装をするレベルもあれば、社会的な性分業(ジェンダー)の拒絶、性器への違和感から性別適合手術を選択する人まで幅広い。

 人気テレビドラマのテーマに取り上げられるなど急速に知られるようになった「性同一性障害」は、TGの中でも性的違和感が医学的な診断レベルまで強い人に限られる。「生まれつきの性に何らかの違和感を持つ人」としてとらえればTGは千人に一人の割合ともいわれる。土肥さんも言った。「この会場にもきっといるんです」

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 主催者によると、TGなど「多様な性」をテーマに当事者が報告するのは、同大会で初めて。「同和教育研究大会」という名称だった大会名に六年前から「人権」の二文字を加え、幅広く少数者の権利擁護をテーマにした流れと呼応する。

 土肥さんは「自分は変態なんやないかと悩み、自分を好きになれなかった」と繰り返した。その悩みは、いわれなき差別にさらされた子どもたちの心と重なった。

 「教師として被差別部落生まれや在日外国人の生徒とかかわることで、私は自分をさらけ出せた。『信頼できる人には本当の自分を話してごらん』という彼らへの問い掛けを自分にも向けることができて、ようやく自分を好きになれました」。四年前から女性ホルモン投与の治療を始め、外観もひげ面から長髪姿にして、戸籍名も昨年変えた土肥さんはそう語った。

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 障害者、高齢者、外国人、女性…。同和問題をその他「少数者」の問題解決と連動させて考える取り組みは、本大会だけでない。昨年九月に開かれた福岡市同和教育研究大会の全体会のテーマは、かつての不登校だった児童・生徒らが通う「夜間中学」だった。

 土肥さんは講演後、取材に「少数派というだけで優劣の対象にされていいはずがない」と語った。講演を聞いた大分県の高校女性教諭(33)は「差別はいけない、という精神論に終わらせず、常にマイノリティー(少数者)の声を聞くことが社会の仕組みを変えることにつながるのでは」と感想を述べた。土肥さんの「告白」は、今後の反差別運動に必要な「すそ野の広さ」を象徴するような問題提起となった。

西日本新聞) - 11月29日2時20分更新