子どもを守ろう 奈良女児殺害の公判から(下) 

 

東京新聞2005.4.10.


子どもを守ろう
奈良女児殺害の公判から(下) 


 奈良の小一女児誘拐殺人事件は九日、奈良地裁の第二回公判で弁護人が被告人質問を行い、小林薫被告(36)の成育歴などをただした。小児性愛傾向が今回の犯行にどのように関係したかは、情状鑑定を請求し、明らかにしていく方針だ。性犯罪者の再犯防止につながるような、背景事情の多角的な解明が待たれる。 (岩岡 千景)

 「かわいらしさや従順さ、汚れていない感じがいい−」。公判で明らかにされた調書によると、小林被告は女児に関心を抱く胸中を、そう供述した。さらに、女児へ性犯罪を繰り返してきた自分の性的傾向は「癖のもん」で、「治らんと思う」「もうやらない自信はない」と語ったという。

 「本件は、事件の残虐性とともに、それが小児性愛にもとづくものということでも社会の強い関心を引きつけている」−。小林被告の弁護人が意見書で言うように、今回の事件を、幼少女に性的関心を寄せる被告が起こしていたことは、大きな衝撃だった。

 性的傾向と結びついた犯罪は、どうしようもないのだろうか。

 「一般的にいえば、小児性愛は性嗜好(しこう)。治るかと問われれば、極めて難しいと答えるしかない。だが、小児性愛者だからといって、必ずしも幼少女への残虐な性犯罪をするわけではない」。性心理障害が専門で、小児性愛の診療経験がある針間克己精神科医は話す。

 針間医師によると、残虐な性犯罪をするのは例えば、小児性愛にとどまらず、相手を虐げて快楽を得るサディズムネクロフィリア(死体性愛)など、問題を多重に抱えるパラフィリア(性嗜好異常)である場合や、冷淡で反社会的な人格障害を抱えている場合などだ。

 小林被告は、どうなのか。弁護人は意見書の中で、ポルノアニメのほかに、生い立ちなどが人格形成上のゆがみを与え、犯行にも影響している可能性が強い、などとしている。

 被告は左目の視力がほとんどない障害があり、小学四年の時に弟の出産事故で母を亡くした。いじめの対象ともなり、父親との確執など、安らぎのない家庭で育った。弁護人は、第二回公判での被告人質問を踏まえ、情状鑑定を請求。被告の人格や性的傾向の形成過程、それらの影響を含めた犯行までの経過を明らかにしていく方針だ。

    ◇

 今回の犯行にエスカレートする以前に、小林被告には性犯罪歴が二回あった。

 一九八九年、五歳女児二人への強制わいせつ容疑は、女児の口に自分の性器を入れるひどい犯行にもかかわらず、執行猶予付き有罪だった。九一年の再犯は強制わいせつ致傷容疑で、このときは五歳女児の首を絞めて気絶させようとまでし、実刑で服役した。

 この二回の逮捕時に、女児が受けた被害の重みや生命への危険性をきちんととらえ、しっかりした再犯防止策をしていれば、今回ほどの残虐な犯罪は防ぎ得たのではないだろうか。

 今回の事件で、法務省は性犯罪者の再犯防止策に乗りだし、受刑者の処遇プログラムを検討する研究会を先月二十八日発足させた。

 今後の対策について影山任佐(じんすけ)東工大教授(犯罪精神医学)は、「欧米では、殺人や性犯罪などの凶悪犯罪者の場合、裁判で刑期とともに、治療の可能性や再犯危険性を検討して処遇を決める。日本でも、個人に合わせた矯正教育や治療をし、それでも更生できたか不確かな場合には、被害対象となりうる女児からの隔離など、出所後の対策も必要だろう」と話す。

 犯行に至った背景を多角的に解明することで、再犯防止に向けた対策のあり方もみえてくるだろう。子どもが犠牲になる性犯罪を防ぐ社会システムをつくるのに参考になるような審理を、期待したい。

http://www.tokyo-np.co.jp/00/kur/20050510/ftu_____kur_____000.shtml