毎日の記事、「性同一性障害:自殺未遂・自傷、経済状況悪化で再上昇 」に異議あり。

いつも丹野記者には頭が下がるが。
昨日の「性同一性障害:自殺未遂・自傷、経済状況悪化で再上昇 」の記事は、飛ばしすぎではないか。
http://mainichi.jp/select/news/20121012k0000m040077000c.html

この記事のもととなる中塚先生のデータをどこで取材したかははっきりしないが。
今年8月、松江のアジア性科学会で中塚先生がこのデータを出されたときは
「2008年から自殺未遂・自傷が増えています。理由ははっきりしませんがリーマンショックの影響かもしれません」
とはいっていた。
ただこれはデータ解釈のひとつの仮説に過ぎない。
08年での上昇はリーマンショックの影響かもしれないし、偶然の一致かもしれない。
そのどちらであるかを論ずるデータはない。
(たとえば、自殺未遂の理由で経済的困窮を述べる割合が増加したなど)。


疑わしい理由はいくつかある。
1.リーマンショックは08年9月。この年の後半に起きたことが、08年の自殺未遂経験率を上げるのか?
2.そもそも中塚先生のデータは「その年の自殺未遂率」ではなく「人生のこれまでの自殺未遂率」。
だから、短期的要因がすぐに影響を与えるとは考えにくい
3.私のところではそんなに増えている印象はない。(データは未確認)
4.不景気の影響は主として中年MTFに来ている。彼女たちの無職・生活保護率は確かにあがっている印象。しかし、多数を占める若手FTMは今のところ、仕事はあり。(関西地方は違うのかもしれないが・・)


むしろ考えるべきは、
「2008年を境に受診患者層が変化し、自殺未遂率が高い人の受診が増えている」ということではないか。
たとえば、メンタルヘルスの悪い人は大学病院を受診し、悪くない人は民間を受診し、さっさと身体治療を進める、と言った具合にすみわけが進んでいるのではないか。
たとえば、関西GIDネットワークが出来たのが2006年。その後、メンタル的ケアを求めない人はそちらに流れたとか。
あるいは、小児思春期のGIDが話題になりはじめたのもその頃なので、保護者、学校関係者などから、精神的に追い詰められた若年者が岡山大に紹介されやすくなったとか。


まあこれも仮説に過ぎないが。


いずれにせよ、昨日の記事はデータ的検証に乏しい、勇み足だと思う。