発信箱:「自殺を減らす」ならば=磯崎由美(生活報道部)

http://mainichi.jp/select/opinion/hasshinbako/news/20100317k0000m070131000c.html
発信箱:「自殺を減らす」ならば=磯崎由美(生活報道部)
 「いきなり手荷物を検査され、何事かと思いました」。東京で今月あった自殺と貧困のシンポジウムに参加した知人の話だ。市民団体の主催で気軽に出向いたが、会場に入ると鳩山由紀夫首相、長妻昭厚生労働相福島瑞穂内閣府特命担当相が勢ぞろい。厳戒の意味が分かったという。

 政府は自殺者の多い3月を対策強化月間として、中高年男性のうつ病早期発見キャンペーンなどに乗り出した。父親が娘に「お父さん、最近眠れてないんでしょ?」と言われてはっとするというCMを見た人もいるだろう。

 年間3万人の自殺者の大半は働き盛りの男性や高齢者が占める。でも最も憂うべきは、小さなうちに抱えきれない悩みを背負った子どもたちではないか。少子化が嘆かれる時代に毎年600人近い未成年者が自ら命を絶つ。かなり深刻なことだと思う。

 動機の一つとして専門家に指摘されてきたのが、性同一性障害GID)だ。自分は女の子のはずなのに、なぜ体は男なのか。男子の制服を着たり、男子トイレに入るのがつらいけれど、誰にも言えない。成人後にGIDと診断された半数以上が就学前から心と体の性の不一致に苦しみ、7割が自殺を考え、2割は実際に試みたり自傷行為に及んだとのデータもある。

 ところが、この問題への鳩山政権の対応はあまりにつれない。児童・生徒のつらさを和らげようと知恵を絞る学校がある一方で、全く理解のない学校もあるのに、各校の対応に任せきっている。

 自殺問題では対策に欠かせない統計の乏しさが指摘され、最近やっと動機のデータなどがそろってきた。子どものGIDも、国としてまず実態を把握すべきだ。

毎日新聞 2010年3月17日 0時09分