ほんとうのじぶん ―性同一性障害の子どもたち 2.違和感

神戸新聞2006.8.1.
http://www.kobe-np.co.jp/rensai/200607gid/02.html
2.違和感 (2006/08/01)
耐えながら迎える成長

 兵庫県播磨地域の小学二年優(ゆう)(7つ)=仮名=が出会った同じ性同一性障害に苦しむ小学四年の春(はる)樹(き)(9つ)=仮名=は、年下の子どもに「男なの? 女なの?」とよく聞かれるという。どう答えるのか春樹に尋ねると、むっつりした顔つきで「無言」とだけつぶやいた。

 母は「なんで言わないの」と口を挟んだ。春樹はいら立った様子で「無言」と繰り返すだけ。「女だよって言いなさいよ。これからそういうこと多いよ」。言い聞かせる母を見ようともせず、顔をゆがめた。

◇   ◇

 実はこの質問を、これまで何度も春樹に尋ねたのは、母自身だった。

 幼いころから春樹は女児に多い趣向を見せていたが、「一過性のもの」と考えていた母。しかし小学校入学前、初めて性別を聞いた。

 春樹は「女だよ」と、はっきり答えた。「おちんちんは、生まれたときに神様が付けていけと言ったから付けてる。大人になったら、おもちゃだから取れるんだよ」とも。そして、泣いた。傷ついたようだった。

 母は信じられず、日を置いて、幾度か同じ問いを投げかけ、そのたびに泣かれた。

 あるときは、「いつから女の子になりたいと思っていたの」と聞いた。春樹の答えはこうだった。「なりたいんじゃなくて、(生まれたときから)女の子なの」

 その春樹が今、性別については口を閉ざすようになっていた。

 春樹が優にあてた手紙がある。そこに、こんな一文があった。「男女、関係なく、頑張って学校に行っています」

 性同一性障害の当事者は、自分の身体の性別をはっきり認識している。小学四年になった春樹は、幼いながらも、身体の性別が変わらないことを悟った。そして、その小さな身体で、猛烈な違和感に耐えていた。

◇   ◇

 「来年が勝負です」

 母の声に力が入る。来夏、初めての泊まりがけとなる臨海学校があるからだ。

 学校側の配慮で女児としての通学が許された春樹だったが、周囲の児童に「オカマ」と言われ、何度か登校拒否になった。悪口にも強くなったが、「臨海学校は行きたくない」と言う。

 第二次性徴を迎えた児童は、部屋でも風呂でも明確に男女が分かれる。「男女、関係なく」対応するのは難しい。母は春樹が風呂に入れないのも覚悟している。

 「理解できない保護者には、分かってもらえるまで説明したい。一生に一度の思い出を経験できないのはかわいそう」

 校長は、臨海学校前、周囲に説明する場を用意する、と約束してくれた。

 「絶対行かせてあげる」と母。

 春樹は、無言だった。