放送の甲子園、10年ぶりに出場 城陽高校放送部

http://www.rakutai.co.jp/news/0614/001.html
2006年6月14日洛南タイムス


放送の甲子園、10年ぶりに出場
城陽高校放送部
顧問の胸の内、ラジオ番組に


 府立城陽高校の放送部(村田香菜部長、8人)が性同一性障害をテーマにしたラジオドキュメントで「放送の甲子園」ともいえる第53回NHK杯全国高校放送コンテストに出場することになった。制作したドキュメント番組は性別を超えて生きる人――を総称する「トランスジェンダー」を告白した放送部顧問の土肥(どひ)いつき教諭の胸の内に迫ったもので、生徒と教師との構えず飾らない会話が聞く者の心に迫る。

 同校放送部は創作ドラマ1996年に全国大会に出場しており、放送の甲子園は10年ぶりの出場となる。
 顧問の土肥先生(44)は同志社大学を卒業し、高校の数学の先生として同校に勤務。放送部の顧問は今年で22年目という。
 8年前までヒゲをたくわえた「男」の先生だった土肥先生が、自らの存在を正面から受け止め、医学用語の「性同一性障害」よりもはるかに違和感なく名乗れるという「トランスジェンダーとしての自分」を肯定できるようになったのは7年前のこと。
 こうした心の葛藤にさほど違和感なく接してきたのが他ならぬ放送部の部員たち。毎年恒例の放送部の合宿には現役とOBが相集い、顧問の土肥先生を囲んで時に朝まで話し合うというよき伝統がある。
 裁判所の審理を経て名前も改名し、自らのありようと正面から向き合う先生と「彼女」を支える生徒については昨年に婦人月刊誌も取材に訪れて特集で紹介した。
 「顧問をネタ」にした番組制作はコンテストのひと月前に急浮上した。昨年はギリギリまでテーマが決まらず、コンテストにエントリーできずという苦杯をなめただけに、「とりあえず作ろう」と、松村優子さん(3年)らが中心に台本制作から着手した。
 ランニングを日課にする土肥先生だが、女性更衣室で着替えるには周囲への遠慮があり、ランニング前の着替えは放送室が長年の定番。
 「何で放送室で着替えるの?」「男が女になるとはどういうこと?」で始まる番組では「女装」にあこがれた子どもの頃からの悩み、心の転機、生物学的な性と異なる性へ向き合うなかで待ち構えていた周囲の反応、興味本位に見られることへの怒り、何よりも支えとなった家族の理解…などについて生徒と土肥先生との会話が続き、フィナーレは「けれども私たちの“どっひー”(土肥先生の愛称)は“どっひー”だ」という生徒の言葉で締めくくっている。
 テレビドラマの影響もあり、性同一性障害という言葉が少しは市民権を得て来たとはいえ、自らの性のありようをテーマに番組をつくるにはまだまだハードルは高い。
 教え子の質問に対し、自分の心の軌跡を淡々と語った土肥さんは「ここ(放送部)は私のありようを卒業生も含めて自然に受け止めてくれる」と話し、生徒との共作ともいえる異色の作品の誕生にしみじみ。
 東京で開く全国コンテストは7月24日〜27日まで。2年生部長の村田さんや松村さんは「全国の空気に触れるのが今から楽しみ」と意気軒高だ。【岡本幸一】