「『心理テスト』はウソでした。受けたみんなが馬鹿を見た」

「『心理テスト』はウソでした。受けたみんなが馬鹿を見た」
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「心理テスト」はウソでした。 受けたみんなが馬鹿を見た

「心理テスト」はウソでした。 受けたみんなが馬鹿を見た

筆者の村上宣寛氏は、心理学の中でも、統計やソフト開発が専門のようだ。
http://psycho01.edu.toyama-u.ac.jp/


専門である、統計的観点からの批判は鋭いし、たぶん的を得ていると思うけど。
(詳しいところは私は統計が良く分からないので、分からないが)


だが、臨床的観点からの批判は的外れ。
特に94ページから116ページのロールシャッハ批判はかなり疑問。
ここでは、以下のように批判。
・ 3人の心理臨床家が、ロールシャッハの結果だけ見て、それ以外の被験者の情報は何も与えられず、被験者の心理状態について推測。
・ その後、被験者についての情報を示す。
・ で、その結果が的外れだったと。


で、実際には以下のようなこと。
ロールシャッハの結果からの3人の推測。
斎藤久美子:gender identityがかなり危うい。倒錯的な心的特徴。神経症レベル。治療がやりやすいとかいう風な人ではない。
馬場禮子:抑うつ感、無気力感、男性性がある程度発達していながら不全、依存性をめぐる葛藤。
秋谷たつ子:ファンタジーによって自我を支えている強迫神経症者。SEXUALな問題を抱えている人。攻撃性の抑圧が引きこもりと感情の抑うつをもたらす。


そして、その後明らかにされた被験者はこんな人。
本山茂久:雅樹ちゃん誘拐殺人事件犯人
詳細は以下URLなど参照。
http://www8.ocn.ne.jp/~moonston/kidnap.htm


で、著者の村上氏は、この被験者は
p111
>もし、本妻が離婚を承諾していれば借金地獄に落ち込んで犯罪者になることはなく、女性関係に問題があるにしても裕福な歯科医として一生を送ったはずである。性倒錯の兆候はまったく見られない。
>基本的には正常者である。


と述べ、


p113
>3名の「めくら分析」は大外れだった。


と結論付けている。


しかし、専門家でなくても、本山茂久の事件の詳細を聞けば、「精神的に問題あった」と思うのではあるまいか。
「基本的には正常」とは思わないと思う。


さらに、本山茂久は
>この判決後から本山は精神に異常をきたし、幻聴・幻覚に悩まされ、食糞症状まで見せる重症患者となる。
http://www8.ocn.ne.jp/~moonston/kidnap.htm
だそうだし、


>60年5月の「雅樹ちゃん事件」は、歯科医の本山茂久(同32歳)が、銀座「天地堂」社長の長男の小学2年生を殺害し、200万円を要求したもので、大阪に逃亡中に逮捕され、精神鑑定は「心神耗弱」だった。
http://www.yomiuri.co.jp/cdrom/shimbun.htm


なのだ。


つまり、ロールシャッハ検査実施時点では「心神耗弱」で、その後明らかに幻覚妄想状態になっているのである。
(もともと統合失調症だったのが顕在発症したのか、神経症レベルの人が拘禁反応を起こしたと見るかは議論のあるところだろうが)


このようにしてみると、3人のロールシャッハ分析の鋭さにむしろ驚かされる。
それを、「大外れ」という、村上氏の批判こそ「大外れ」ではあるまいか。


ついでにいうと、村上氏は
>性倒錯の兆候はまったく見られない。
と、あたかもパラフィリアの有無が争点かのようなことを書いているが、ロールシャッハ分析で指摘されたことは、むしろ男性gender identityの発達の不十分さであり、パラフィリアの有無には力点は置かれていないと思う。