倫敦塔

annojo2005-10-28


壱週間の滞在中ただ一度だけ倫敦塔を見物した事がある。その後再び行こうと思った日もあるがやめにした。人から誘われたこともあるが断った。一度で得た記憶を二返目でぶち こわすのは惜しい、三たび目に拭い去るのはもっとも残念だ。「塔」の見物は一度に限ると思う。


日本に居ったとき歴史や小説でお目にかかるだけで一向要領を得なかったものがいちいち明瞭になるのは甚だ嬉しい。しかし嬉しいのは一時の事で今ではまるで忘れてしまったからやはり同じ事だ。只なお記憶に残っているのが拷問道具である。丸い部分に首を通し、両足も下の部分にはめられる。英国人は甚だ恐ろしきことをする。

斬首道具も甚だ恐ろしきものだ。首を刈るとは英国人は日本人とおなじ風習をもつものだと、余は二たびうなづく。

土産屋に行くと、鎖帷子が販売されていた。二百五十ポンド、おおよそ五万円である。
想像してみる。余が鎖帷子を着て、診察する姿を。恐ろしき姿だ。これで余の空想が叉打ち壊された。

それからは人と倫敦塔の話をしない事に極めた。叉再び見物に行かない事に極めた。