ドキュメント 両性の間で婚姻代わり「養子縁組」

2005.7.15.読売新聞九州版


ドキュメント 両性の間で<9>婚姻代わり「養子縁組」


◆パートナーとして苦肉の策
 長身でスーツが良く似合う、会社員のユウキ(25)(宮崎市在住)と自営業のカズヤ(33)(宮崎県都城市在住)。2人は、5年越しの交際を続けているゲイ(同性愛者)のカップルだ。

 「見せろ」。ユウキの自宅に遊びに来たカズヤが、ユウキの手にしていた勤務ダイヤ表を引ったくった。カズヤはいたずらっぽい笑みを浮かべながら、自分の携帯電話のメモにユウキの休日を打ち込んだ。

 「何だか監視されているみたいだな」。苦笑いを浮かべるユウキは、もちろん悪い気分ではない。

 2人は、九州地域の同性愛者ら性的少数者のサークルを中心となって運営し、ユウキが代表を務めている。サークル活動に携わっていると、「異性愛者」から「どうして異性じゃなくて同性を好きになるの」という質問をしばしば受ける。

 そんな時、ユウキは極めて単純に受け答えするようにしている。「あなたこそどうして同性でなく、異性を好きになるの」

 聞き返すことには、異性を愛するように同性愛者が同性を愛することを悟ってもらう狙いがある。

 同性であれ、異性であれ、愛する対象の選択に明確な理由を見いだすのは難しいし、仮に相手へどう説明しても理解してもらうことは困難なのだ。

 確かに、異性愛者から見れば、同性を愛することは不自然かもしれない。しかし、ゲイカップルの日常は異性愛者の場合とほとんど変わりがない。

 カズヤとユウキのケースでは、時間の融通の利くカズヤがなるべくユウキ宅を訪れるようにしている。普段のデートでは、レストランに出掛けたり、カラオケに行ったりしている。互いにまとまった休みが取れれば、大分、熊本、福岡へドライブに出かける。

  ◇   ◇

 2人は数年前から「婚姻関係」にあり、それぞれの左手の薬指にはシルバーの結婚指輪が光る。

 もちろん、日本では同性の婚姻が認められていないため、他のゲイカップルと同様、養子縁組を結び、カズヤが養父、ユウキが養子となった。

 パートナーに万が一のことがあった時、ゲイカップルは養子縁組がなければ、遺産相続など「配偶者」としての権利が守られない。養子縁組は、同性愛者にとって苦肉の策なのだ。

 カズヤによれば、長年連れ添ったゲイのパートナーが急病や事故で病院に入院しても、養子縁組を結んでいなかったばかりに、病院側から「親族でなければ認められない」と面会を断られるケースもある。

 同性愛者の恋愛では、こうした思いも寄らぬトラブルが交錯する。社会の偏見の荒波にももまれ、男女間にはないハードルを越えなくてはならないこともある。「異性愛者並みの幸せが欲しい」。多くのゲイカップルがため息交じりに語る理由がここにある。

  ◇   ◇

 大分市出身の男子大学生(25)は、「人間関係を壊したくなくて、自分がゲイであることを周囲に告白できない」と悩んでいる。

 「異性愛者は、同性愛者のセックスを自分たちに置き換えて想像するから忌み嫌う。セックスは大切なことだけど、人間、それだけじゃない。世の中には、同性しか愛せない人たちもいることを理解さえしてもらえれば」と、大学生は訴える。カズヤも「僕たちは、ただ静かに安心して普通に暮らしていきたいだけ」と話す。

 「生涯のパートナーなんだから、やはり精神的なケジメが欲しい」とユウキ。2人の夢は、米国で結婚式を挙げることだ。(文中敬称略)

http://kyushu.yomiuri.co.jp/magazine/document/006/do_006_050714.htm