性同一性障害―撮影スタッフも“カミングアウト” 京都の公立高教師追ったドキュメンタリー映画

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サンケイ
性同一性障害―撮影スタッフも“カミングアウト” 京都の公立高教師追ったドキュメンタリー映画
2012.5.13 18:00 (1/3ページ)[性の悩み]

 自分の性別に違和感を持ち、本来の生き方を模索する人々を追ったドキュメンタリー映画「Coming Out Story」が19日、大阪市淀川区のシアターセブンで公開される。日本映画学校の卒業製作として作られ、メガホンをとった梅沢圭監督に、最優秀賞監督に贈られる「今村昌平賞」をもたらした作品の再編集版。映画の軸となる人物は、京都の公立高校教師。京都で8カ月間、アパートを借りて撮影した梅沢監督が大阪市内で作品について語った。(橋本奈実)


「Coming Out Story」 とりかかりは?


 梅沢監督は卒業製作の題材を探し、図書館にこもっていた。そのとき、関東の小学生が「望み通りの性別」で学校に行くことができるようになった、という記事を見た。

 「後ろ姿のどんよりとした写真に、なぜこのような表され方をしなければいけないのか、という感情を持ち、セクシャリティーと向き合いたいと思った」

 自分にとって、当たり前のように思っていた自身の性別。それが根本から揺らいだら、どのような感情を持つのか。「そんな人に会ってみたいと思って探し、京都まで来てしまいました」と話す。

 《京都の公立高校教師、土肥いつきさんは「女性の体を獲得したい」と、長年の願いでもあった性別適合手術へと向かう。軽やかな関西弁と笑顔の絶えない人柄で多くの友人に囲まれる土肥さんを追ううち、撮影隊の男性が突然、現場から姿を消す。彼は、ずっと封じ込めてきた自身の秘密に向きあってしまった…》


次第に心開いて


 初めて会ったとき、土肥は、男勝りの女性が使うようにさりげなく「男言葉」を使った。足を怪我しており、理由を聞くと「生徒を怒ったときに机を蹴ったら指を骨折した」と笑い飛ばした。その飾らない姿に惹かれたという。

 会う前に取材意図も伝えており、これまでの経験から身構えられることも覚悟していた。だが、土肥さんは飲みに行こうと提案し、その場に女性から男性になった高校生を同伴。彼の悩み相談と同時進行で、監督と話をしたという。

 「いい機会だから紹介するわ、と。どんな状況でもSOSを出す子供と向きあう、人としての真摯さに興味を持ちました」

 梅沢監督が撮影を始めたとき、すでに土肥さんは周囲から理解され、性別を超えたトランスジェンダーとして生きていた。それゆえ、彼女は「苦しかった過去」や「弱み」について語ろうとしなかったという。「頭のいい人で、自分の中で整理できていないことは口に出さない。そこは苦労しましたね」

 ともに日々を過ごしながら撮影を重ね、距離を縮めた。性別適合手術前、「不安だから立ち会ってほしい」という連絡を受けたとき、完全に心を開いてくれた気がした。以後、かつて生徒から、すれ違いざまに「おかま」と言われたことなどを語ってくれるようになった。


スタッフも混乱 自らの性別にゆらぎが…


 土肥さんと向きあううち、監督自身も変化した。彼女のように語ろうとしたら、自分のどの部分を掘り下げることになるのか。自分の性別に対する考え方への揺らぎを感じたという。

「それは他の人にもあって、スタッフの一人が混乱しちゃったんです」

 もともと、性別を超えてトランスジェンダーとして生きる決意をした人だけではなく、揺らぎの過程にある人を描くべきではないか、と考えていた。土肥さんに影響を受け、自分の性別に迷ったスタッフの存在を描くことは、作品に必要と確信。「映画には関わっていきたい」という意欲を持っていた本人を説得して撮影し、本編に入れた。

 「作品を作るとき、思っていなかったところに行き着きました」

 今作は、トランスジェンダーという「特別な人」の話として描いたつもりはないという。「他者と出会うことで、今まで見えなかったものに気付く」という人間関係の普遍的な話と考えている。

 「そんな関係の連鎖で、人は自分自身を知っていく。映画の向こう側だけではなく、スクリーンを見ている人にも、何かが連鎖すればうれしいですね」