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明日への不安:同性愛カップルの課題/中 「制度変わる実感ない」 /熊本
◇親にも打ち明けられず
「性同一性障害に対する世間の認識は変わったかもしれないけれど、(レズ)ビアンに対してはほとんど変わっていない」
佳美さん(36)と清子さん(33)=いずれも仮名=は約3年半前に交際を始め、直後から熊本市内の集合住宅で同居している。「もし制度で認められていれば結婚しているかもしれない」。清子さんは同性愛であることを親に打ち明けているが佳美さんは言っていない。一人っ子のため「子孫が残らないと親にがっかりされるのが怖い」という。
「彼氏いないの」「合コンに行こうよ」「結婚しないの」−−。周りの友人たちは気軽に声を掛けてくる。「一人が楽しいから」などと答えるが、誘いは煩わしい。「彼女がいる」ときっぱり言えたら楽だと思う。でも変な目で見られるのが怖くて周囲の多くの人には話していない。佳美さんは一時彼女を彼氏に置き換えて周りと話していたが、疲れてやめた。
佳美さんが印象に残っていることがある。2年前にあった清子さんの父の葬儀。結婚していれば義理の父親にあたり参列するのは当たり前だが、親族からは「来てくれてありがとう」と言われた。「熱心な友達という感じで見られていた。認められていない気がして切なかった」と振り返る。割り切れない気持ちのまま途中で会場を後にした。
2人が死と向き合う場面となれば事態はさらに深刻だ。日ごろから将来のことを意識しているわけではないが考えると不安になる。例えばパートナーが突然事故や病気で倒れたら−−。事故があれば警察は家族に連絡にする。だが法的に家族でないパートナーには連絡が来るかどうか分からない。特に佳美さんは親に清子さんとの関係を話していないため何かあった場合、清子さんに連絡がくるという確証はない。
佳美さんは「周囲が同性愛を認知し、理解してくれれば財産相続など将来の不安を取り除いてくれるようなパートナーとしての権利を保障する制度や法律もできるかもしれない」と話す。「ただ、現実にはテレビでも取り上げられないし、どこの政党もマニフェストに書いてない。変わるかもしれないという実感はない」と不安を語る。【遠山和宏】
毎日新聞 2010年11月11日 地方版