明日への不安:同性愛カップルの課題/上 将来の安心へ遺言作成 /熊本

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明日への不安:同性愛カップルの課題/上 将来の安心へ遺言作成 /熊本
 ◇パートナーに財産相続
 「この中に遺言が入っているんです」。東京都郊外に住む50代男性は、地震など緊急時に持ち出すリュックサックを見せた。遺言は、同居する8歳年上の男性パートナーと5年前に作ったものだ。どちらかが死んだ後に遺産を相続するという内容が書かれている。

 2人は同性愛の関係にある。50代男性は中学生のころから同性に好意があることを意識し始めた。25歳の時、親に「女性に興味がないから結婚しない」と話すと「おかしい。病院に行け」と言われた。今のパートナーは初めての「彼氏」で、20代後半から交際を始めた。一緒に住もうと賃貸マンションを探したが、男2人に対する世間の視線は冷たい。ようやく理解がある大家を見つけ住み始めたが、半年後に大家が病死。大家の妻は2人の居住に否定的で転居を余儀なくされた。

 「新たな部屋は見つからず近い距離で別々にマンションを借り、食事などは互いの住居を行き来する生活を約20年続けた」

 02年に相手男性が退職し、計2部屋分の家賃を負担するのが経済的に厳しくなった。03年にマンションを共同名義で購入した。「2人に法的な関係がないままでは、どちらかが亡くなった場合所有権が親族に渡ってしまう」。残された相手はどうなるのか、不透明な将来に思いを巡らす。

 財産を守るには「公正証書遺言」を作成する方法があると知っていた。しかし、やり方がよく分からなかった。マンション購入の半年後にセクシュアルマイノリティー(性的少数派)向けサイトを開設していた熊本市行政書士法人ウィズネスのホームページを見つけた。メールで相談を始め、同市内のホテルで行政書士と顔を合わせて話し合った。05年12月に公正証書ができた。「将来の安心が買えた」とほっとした。

 ただ、遺言が指定できるのはあくまで死んだ後に限られる。病気や事故などでパートナーが入院した時、病室に入ったり、治療の意思を表明したりできるかは依然不透明だ。

 2人で養子縁組し、正式に「家族」になることを検討している。「制度が変わるのは難しい。いつ病室に運ばれたり死んだりするか分からない。その時どうなるかが自分たちにとっては大事だ」。男性の不安は尽きない。

  ◇  ◇

 通常の結婚なら当たり前に保障される遺産相続や医療方針決定などの権利が、同性パートナーには認められていない。当事者たちは年を重ねるごとに将来への不安を深めている。何を悩みどう生きていくのか。同性愛者や支援者の声を聞いた。【遠山和宏】

毎日新聞 2010年11月10日 地方版