性同一性障害

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性同一性障害
性同一性障害とは医学的な疾患名である。英語ではgender identity disorderといい、性同一性障害はその訳語である。性同一性障害は、かつては「性転換症 transsexualism)」という用語が用いられてきたが、1980年より、性同一性障害という言葉が用いられるようになった。この性同一性障害という疾患を診断するための国際的な基準には、WHO(世界保健機関)が定めたICD-10によるものと、米国精神医学会の定めたDSM-IV-TRによるものが現在ある。本書では、DSM-IV-TRによる、性同一性障害の診断基準を○○ページに示した。性同一性障害には、「小児の性同一性障害」と「青年または成人の性同一性障害」があるが、ここでは「青年または成人の性同一性障害」について説明する。
 まず診断基準Aとして、「反対の性に対する強く持続的な同一感」がある。具体的には、反対の性と同じような考え方や感じ方や行動パターンをする、手術やホルモン療法で反対の性の体になりたい、反対の性で社会的に暮らしたいなどの強い気持ちを持つ。
 次に診断基準Bとして、「自分の性に対する持続的な不快感、またはその性の役割についての不適切感」がある。具体的には、MTF(男性から女性へ)の場合、ペニスや睾丸がいやだ、声が低いのがいやだ、ひげが生えているのがいやだ、がっちりした体つきがいやだ、スーツネクタイ姿がいやだ、などがあり、FTM(女性から男性へ)の場合、乳房のふくらみがいやだ、お尻が大きいのがいやだ、月経がいやだ、スカートがいやだ、などがある。
 さらに診断基準Cとして、「その障害は、身体的に半陰陽を伴ってはいない」がある。半陰陽とは、性染色体(XX,XYなど)、性腺(精巣、卵巣)、内性器、外性器などの身体的な性別が、非典型的な状態を指す言葉である。つまり、性同一性障害においては、身体的性別特徴には、明白な形では非典型的なものはないということだ。
 最後に、診断基準Dとして「その障害は、臨床的に著しい苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている」がある。この診断基準は、DSM-IV-TRにおける他の精神疾患でも多く見られるものであり、疾患とすべきか否かの議論の分かれるような概念に対して、この基準を入れることで、疾患としての閾値を示すという考えだ。
 以上の4つの診断基準を満たすと、性同一性障害と診断される。
なお、性同一性障害者特例法では、性同一性障害者を「生物学的には性別が明らかであるにもかかわらず、心理的にはそれとは別の性別(以下「他の性別」という。)であるとの持続的な確信を持ち、かつ、自己を身体的及び社会的に他の性別に適合させようとする意思を有する者であって、そのことについてその診断を的確に行うために必要な知識及び経験を有する二人以上の医師の一般に認められている医学的知見に基づき行う診断が一致しているものをいう。」と定義しているが、これはあくまで性同一性障害者特例法における法律上の文言定義である。すなわちこの法律上の概念である「性同一性障害者」と医学上の概念である「性同一性障害」は必ずしも完全には一致するものではない。
わが国で治療が取り組みだされた1990年代後半から2006年までにかけて、国内の主要医療機関性同一性障害と診断されたものは約5000名であり、その男女数はほぼ半々である。性同一性障害の可能性があっても、医療機関を受診していなく診断されていないもの、あるいは医療機関にかかることなく、個人輸入などでホルモン治療などの治療を行っているものも相当数いると思われるが、その実数は把握困難である。