いとしのハウスマヌカン

某日、翌日の着る服に困り、南青山のコム・デ・ギャルソンに。
最近はあまりいかなくなったが、20年ぐらい前から通っていた店。


そこには20年くらい変わらず働いているお姉さんがいる。
彼女は素晴らしい。


お店に行くと、当然私の事を知っているのだが。
「今日は何をお求めですか」
などといって近づいてきたりはしない。
軽くほほえみ、目で会釈をするだけである。


しかし、こちらが悩んで、話しかけてくると、にっこり笑いながらじっと話を聞いてくれる。
でも、やっぱり、
「それでしたら、この服がお奨めですよ」
などと野暮なことはいわない。


しばらくは、適度に相槌を打ちながら、こちらの話を聞き続ける。
そうしてしばらくして、
「で、自分でいいと思うのはありましたか」
と聞く。


で、こちらが気に入ってたけど何となく自信のなかったシャツを指差すと、
「ああ、それはいいですよね」
と軽く、うなづく。


しかし、わたしは優柔不断なので、あれはどうだろうととか、やっぱりこれはどうだろうとか、他には良いのはないのかと、しばらくうだうだと悩む。
で、その間、彼女はあいかわらず微笑を浮かべて、見ていてくれる。


で、結局、最初にいいなと思ったシャツに、戻る。
彼女はにっこりうなづいてくれる。
そしていつの間にか、そのシャツを選ぶことへの不安は無くなっている。
最初から、そのシャツを買おうと自分では決めていたことに、最後になってようやく気がつく。


彼女は微笑を浮かべながら、それを見守ってくれた。


我がいとしのハウスマヌカン