男の娘(オトコノコ) 自然体 オンもオフも気軽に女装 

北陸中日新聞
http://www.chunichi.co.jp/hokuriku/article/popress/love_and_sex/CK2011112602000163.html
男の娘(オトコノコ) 自然体 オンもオフも気軽に女装 
2011年11月26日

 ちまたで今、ファッションとして女装を楽しむ「男の娘(こ)」と呼ばれる人が増えているらしい。人に知られたくない秘密の趣味だった昔と違い、コスプレ感覚で気軽に女物の服をまとう男性も多いとか。彼らにちなんだ店やネット上のコンテンツも続々と立ち上がり、一種のサブカルチャーとして広がりつつある。(メーン担当・松本浩司 サブ担当・奥野斐)



 束ねた長い髪に濃すぎない自然な化粧。花柄のワンピースに桃色のカーディガンを合わせたスタイルは、一見すると女性にしか見えない。金沢市在住の会社員、ゆうてんさん(仮名)。コスプレ趣味が高じて、3年ほど前から日常生活でも女装をするようになった。

 平日は市内の会社に勤めているが、社内でも女性の服装で通している。週末は欠かさず上京し、女装した男性が接客する秋葉原のカフェバー「NEWTYPE」に勤務。男の娘として、訪れる男女の客をもてなしている。

 「もともと男らしい格好より、中性的な服装の方が好きだった」とゆうてんさん。コスプレ仲間の女友達をまねして女性キャラクターに扮(ふん)するうち、「日常でも女装を意識するようになった」という。



日常に不都合なし
 今では女物の服の数も増え、女性らしい立ち居振る舞いも少しずつ板についてきた。役所の窓口などで名前と見た目のギャップに驚かれることもあるが、日々の暮らしで不都合は感じていない。「意外と周囲にも受け入れられている。後ろめたさは感じていませんね」

 かつて女装といえば、決して公にはできない「秘密の趣味」という向きが強かった。しかし、アニメブームでコスプレが市民権を得つつある昨今、ゆうてんさんのように公然と女装する男性も出てきている。

女としてではなく
 「男の娘」は、そんな女らしい外見をした男性の総称として、ネット上で生まれた言葉だ。明確な定義はないようで、性的な好みや恋愛対象は人によってさまざま。「女として生きたいわけではない」というゆうてんさんと同じく、あくまでファッションとしてとらえる人も少なくない。

 女装ファンの増加に伴って、彼らをターゲットにしたコンテンツも生まれている。「男の娘文化」の普及を目指す会社「化粧男子」(東京都)は今年5月、女声トレーニングやメーク講座などを盛り込んだ動画配信サイト「男の娘☆ちゃんねる」を開設。サイトをお気に入り登録した人は、11月現在で1600人を超えている。

 社長の井上魅夜(みや)さん(29)は「今の時代、『男らしくなければならない』という縛りは取れてきている」と強調。「ムキムキのマッチョだけが男じゃない。きゃしゃな男子が『女子らしさ』を帯びて、別のパワーを得られるはず」と力を込める。

一般女性にも人気
 同社は文京区湯島に、男の娘が接客するバー「若衆bar 化粧男子」を構えており、来年1月にはすぐ近くに2号店を出店。

 女装趣味の男性だけでなく、一般女性らの間でもじわじわと人気を集めているという。

杉田真衣・金沢大 人間社会学域准教授の話
ネット介し 同士出会う
 女装そのものは、昔から老舗の「女装サロン」があったように、目新しい趣味ではない。そんな女装趣味に、皆で楽しむオープンな雰囲気が加わったのが、今の「男の娘」ではないか。背景としてネットの存在が大きく、同好の士が出会うきっかけをつくっている。

 アニメやゲームなどの消費文化やメディアの影響もあって、多くの人が「性が多様であること」を知っている。社会が性的マイノリティーの存在を認識するようになったことで、好きな装いをできる自由も広がったのではないか。

 女性は変身してから外に出るという意味で“女装”をしているともいえる。自分と同じように「美のために努力している人」と見なせるので、男の娘は遠い存在ではない。男の娘を描く少女漫画が多いことを考えても、女性は性の多様化に寛容なのかもしれない。

 ただ、「男らしさ」「女らしさ」が本質的に変容した、とまでは言い切れない。少女漫画の中でも一般的な「らしさ」は変わっておらず、評価は難しい。