「男の娘(オトコノコ)」になりたくて

http://www.asahi.com/showbiz/manga/TKY201111150402.html
2011.11.16 朝日新聞夕刊
「男の娘(オトコノコ)」になりたくて


■服・メークは女の子…でも中身は男

 街を歩くと本物の女性と見まがうほどの、女装した男子が目につくようになった。マンガやアニメなど2次元の世界では、以前から、容姿や服装が女の子に見える、美少年キャラを男性読者が楽しむことはあったというが、こうした「女装」は、女性の何にひきつけられているのか。

 今月初旬、都内で男性向けのメーク講座「NTメークレクチャークラブ」が開かれた。参加したのは20〜50代の男性8人。スーツ姿の人も目立つ。全5回の3回目で、この日のテーマは「アイメーク」だ。

 「今回はとても難しいですよ」と、講師役でヘアメークなどを手がける、立花奈央子さんが始めると、参加者は持参した鏡に映る自分を見つめ、まゆげをかき始めた。この講座が教えるのは正真正銘、女性になるための女性用メークだ。まゆげを整えたり、スキンケアをしたりといった、今では大手百貨店でも扱われる、身だしなみ感覚の男性用の化粧ではない。受講者のニーズは、街を歩くための女装からバンドで演奏する際のメークまで、様々だ。

 10月に開講し、レベルによってクラス分けされた講座には、都内を中心に全国から生徒が通う。「初級」の費用は約3万円。この講座の代表で、女装した男子が働く居酒屋も経営する茶漬けさんは「反応は非常によい。実際のニーズはかなりあると思う」と話す。最近、女装した男性が増えたと感じる一方で、首から上が真っ白で口紅は真っ赤という「キレイじゃない女装」が多くて気になっていたという。

 服装やメークは女の子。でも、中身は男の子を指すのに、「男の娘(こ)」という言葉が使われることが多い。

 「街を女装して歩いている人のかなりの部分が『男の娘』。女装と性の問題は別の問題です」と茶漬けさん。自身も自称は「僕」で、あこがれるのはあくまで女性の外見の美しさだ。元々女の子っぽいものが好きだったが、きっかけは10代の時にテレビ番組で見たビジュアル系バンドの「シャズナ」の女装だ。

 こうした「男の娘」は、2000年以降、マンガやアニメの中で増えてきた表現の一つという。「男の娘」作品を取り上げる専門誌「わぁい!」(一迅社)の土方敏良編集長は「2次元から始まり、ネット上で話題が広がるなかで、実際に女装することへの敷居が下がっていったのだと思う」と話す。

 同社は07年、女装の仕方のノウハウを掲載した「オンナノコになりたい!」を出版。男女の体の違いに始まり、女性の下着の種類やムダ毛処理の仕方などを細かく指南した同書は予想以上の売れ行きとなり、続編を含めて計3冊で累計11万部超を記録した。従来、マンガやゲームに登場する、こうした「かわいい男の子」を楽しむのは主に男性で、登場する男の娘に自分を同化させているケースが多いという。

 なぜ、同化するのか。土方さんがあげるのは「イメージとしての女性コミュニティーへのあこがれ」だ。

 例えば、お花畑で遊ぶかわいらしい女の子同士や、学校のクラスの片隅でこそこそ話し合う女の子たち。そうした「美しい」光景に、同化したいのに自分が男だと世界を「ぶち壊してしまう」。だから、限りなく女性に近づこうとするのだいう。「女性じゃないと入れない世界への切符として、女装があるのではないか」と話す。(高久潤)