成人と思春期の性同一性障害者へのホルモン療法5

FTMのホルモン療法
FTMの治療目標は、男性化(声の低音化を含む)、男性型の体毛と体格の形成、月経の停止だ。これらの目標達成のための主たるホルモン療法は、テストステロン投与だ。最も用いられるものは、テストステロンエステルで、これは2週おきに、200から250mg筋肉注射される。いくつかの国では、テストステロンアンデカノエイト(1000mg)が使用可能で、10から12週おきの間隔で注射できる。低量で毎週の注射を好む医師もいる。血中テストステロン濃度の変化をさけるためだ。アンドロゲンジェルや経皮パッチでも、一定の濃度を保つことが出来て、患者が自宅で使用することが出来る。
投与方法に関わらず、血中テストステロン濃度は定期的に測定し、生理学的レベルを超えた量を、長期にわたって投与することを避けねばならない。過剰な量は、生物学的男性において有害であることが分かっているからだ。時折、月経出血が止まらない場合があり、プロゲステロン性薬剤の追加が必要となる。経皮ないし経口テストステロン投与の場合は、月経出血を止めるためのプロゲステロン性薬剤の追加はほぼいつも必要となる。月経出血は、患者にとっては、逃れたいと思っている性別を思い出させる不快なものだ。


FTMへのホルモン療法の結果
FTMへのホルモン療法の結果は次の通り。
毛。
体毛の発育パターンは、本質的には思春期の少年と同じだ。最初、上くちびるに、ついでアゴ、ついで頬、など。多毛の程度は、男性家族のパターンの程度を見れば予想可能だ。男性性脱毛の発生も同様に、男性家族を見れば予想できる。脱毛は、約50%の患者で、ある程度起きる。この結果は、注射、経皮、経口といったアンドロゲンの投与パターンの種類とは関係ない。
にきび。
にきびは約40%の患者で起こり、通常、顔より背中で著明だ。このことは、思春期を過ぎてアンドロゲン治療を開始する、低ゴナドトロピンの男性においても観察される。この症状は、通常、従来のにきび治療の方法で改善される。
声。
低音化は、アンドロゲン投与後、6から10週間で起こり、元には戻らない。
脂肪。
アンドロゲン投与によって、皮下脂肪の減少が起きるが、腹部脂肪は増加する。低脂肪組織の増大は、平均すれば4kgで、体重増加は通常、さらに大きい。体重増加はアンドロゲン使用に関係するが、食事療法でコントロール可能だ。
陰核肥大。
陰核肥大は、すべてのFTMで起こるが、その程度は様々だ。約5から8%のもので、サイズは、腟挿入に十分な大きさとなる。
性欲。
ほとんどの患者は、性欲の増進を報告し、不快なこととして体験されることはほとんどない。
卵巣。
卵巣は多嚢胞性の変化を示し、アンドロゲン投与は乳腺活動の低下をきたしうる。しかし、乳房のサイズ減少は起きない。
卵巣摘出後は、アンドロゲン投与は、男性化の維持と骨粗鬆症の予防のために必要だ。LH血中濃度を正常範囲に抑制することは、アンドロゲン投与の効果判定に持ちうることが出来る。