『性同一性障害──ジェンダー・医療・特例法』

性同一性障害──ジェンダー・医療・特例法』拝読。
http://www.geocities.jp/webhitoshi/gid_contents.html
知る人ぞ知る、という先生方による論文集。
すなわち、従来の性同一性障害に関する言説は、「専門家」と称する法律学者、医者、および、一部著名当事者によって、主として形成されてきた。
しかし、この論文集(私と同世代の東優子先生は別として)、1970年代生まれの気鋭の若手学者による論説、および、彼らによる、無名の多数当事者へのインタビュー、調査により、性同一性障害言説への新たなる視座を与えている。
正直なところ、既存の言説への突っ込み、批判も容赦ない。
ここで、紹介するのもちょっとしり込みするぐらいである。
そういう意味で大変刺激的な一冊。


また、主として2004-6年ごろの論文であることも、興味深い。
そのため特例法出現の影響、金八世代、といった時代の瞬間の言説をとらえている。
なぜなら現在では、特例法が当たり前の世代、「ラスフレをみて、自分も性同一性障害と思った」世代が出現し、もはや時代が変わりつつあるのだから。


以下、思いつくまま箇条書き。
・それにしても文献増えたなあ。10年前は数えるほどだったが。
・P50、FTMのひかれる性別が同性27.9%、というのは臨床データと比較して多すぎ。ESTOさん系で調べたので、必ずしも違和が強くない人も混じってる?
・にしても、性別ひかれるのが、同性か異性かの二者択一はちょっと、きつくないかい。
・P245、ガイドラインの「自己決定=自己責任」が新自由主義的発想、という指摘はなるほどなあ。そういえばあのころ、小泉改革とか郵政民営化とかが、ナウかったからなあ。
・意見書所有の有無を聞いているが、何が意見書か、というのは実は結構難しい問題。
・9章、ブルーボーイ事件についてよく調べてる。なだいなだ先生の「クワルテット」を引用したのは、目からウロコ。
・本文中の注には名前がでてきたが、索引にはでていないのがちょっと疎外感。


それにしても、どうして、いつまでたってもアマゾンに載らないのだ。
御茶の水書房編集の橋本育さん頑張って。


追記:そのご無事にアマゾンに載りました。

性同一性障害―ジェンダー・医療・特例法

性同一性障害―ジェンダー・医療・特例法