2005.7.20.読売新聞九州版
ドキュメント 両性の間で<10>女性同性愛者に冷たい目
◆助長される偏見
スーツ姿で福岡のビジネス街を飛び回るキャリアウーマン、田中美佳(34)(仮名)。私生活では、20歳代のころから、レズビアンらを集めたイベントを、中心になって企画している。3か月から半年に1回、ライブやダンスショーなどを開き、毎回、約300人が交流している。
自分でもレズビアンである喜びをこれまで享受してきたが、次第に将来のことで漠然とした不安感を抱くようになってきた。
約5年間同せいを続けている20歳代の服飾デザイナー、矢口かおり(仮名)とのことがきっかけだ。彼女について、「たまたま私と気が合ったからこうなったけど、彼女は元来、異性愛者」とみている。矢口も、「結婚して子どもを産みたい」との願望がある。
「普通に男性と結婚して幸せになってもらいたい」。田中は「好きだからこそ、別れなければならない」と3年ほど前に決意した。
今しみじみと思う。「年老いた時、連れ添うパートナーはいるんだろうか」
◇ ◇
◆カップルの将来は?
「男性と結婚せず、レズビアンとして生きることは大変なんです」。レズビアンとバイセクシュアル(両性愛者)の女性を対象にしたコミュニティーセンター「LOUD」(東京都)代表の大江千束(ちづか)(45)は打ち明ける。
こうした女性たちは、ゲイに比べてより経済的に安定していないため、安定を求めて不本意ながら家庭に入り、主婦として納まっているケースが多数あるという。
大江らレズビアン識者は「男性の興味本位で作られたアダルトビデオの影響で、世間から『レズビアンが性的快楽を追い求めている』と誤解されている」との一致した見解を示す。「男女のカップルと何ら変わったことはないんです。むしろ、心のつながりは強いかも」
同性愛者が集うインターネットのサイトでは、こうした偏見を恐れ、男女の同性愛者カップル間で互いに婚姻関係を結ぼうとの呼びかけが目立つ。田中も「世間体もあるし、適当な男性を見つけて結婚してしまおうか」との衝動が頭をもたげる。一方で、「とにかく、精いっぱい生きるだけ」と思い直す。
◆ ◆
今回の連載では、性同一性障害と同性愛を取り上げた。取材を通じて実感したのは、性のあり方は多様で、誰もが少しずつ色が変化していくグラデーションの中の一点に位置しているにすぎないことだ。
社会が許容する異性間以外にも、バイセクシュアルなどいろいろな性のあり方があり、時には当事者ですら混乱する。田中も高校時代、女性にしか魅力を感じない自分を、体は女だが心が男である性同一性障害と考え、ホルモン治療を受けた。
この社会では、下半身に絡む話題はタブー視される。性的少数者は偏見に対して声を上げられず、それ故に偏見が助長されていく悪循環に組み込まれている。誰にも相談できず、うつ病になり、あげくの果ては自殺に追い込まれることもある。
少数者を多数者の論理で切って捨てる構図――。故意にせよ、そうでないにせよ、それがいつまでも続いていいはずがない。(文中敬称略、おわり)
http://kyushu.yomiuri.co.jp/magazine/document/006/do_006_050721.htm