性別変更者に特定番号 年金機構 一時ネット閲覧可能

性別変更者に特定番号 年金機構 一時ネット閲覧可能
 日本年金機構が、性同一性障害で性別変更した人を判別するため、昨年10月から、基礎年金番号10桁のうち前半4桁に共通する固定番号の割り当てを始めていたことが7日、分かった。固定番号は一時インターネットで確認できる状態だった。支援団体は勤務先などに性別変更を知られる可能性があり、プライバシーの侵害だと批判している。
 性同一性障害学会によると、性別変更者は国内に約3千〜4千人。機構は昨年10月以降に性別を変更した人に新番号を割り当て、元の基礎年金番号と併せて2つの番号を持つ制度へと変更した。変更前は性別変更しても、それ以前と同じ番号を利用できた。
 機構は制度変更の理由について、年金支給開始時点の性別に基づいて支給額を算定していたのを改め、性別変更前後の加入状況を正確に把握することになったと説明。共通番号を割り振るのは、性別変更した人が持つ2つの年金記録を誤って一本化しないためだとしている。
 一方、4桁の共通固定番号は、ネットに公開された年金相談マニュアルの注意書きに記載されていた。機構は今年1月、外部の指摘でネット上に固定番号が掲載されていることに気付き、4月までに全国の200人弱に新番号を割り当てたという。
 機構の担当者は取材に対し「適切でなかった面もあると反省している」と話した。新番号でも性別変更は判別できるというが、詳細は明らかにしていない。
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 ■プライバシー考慮せず 支援団体批判
 基礎年金番号から性同一性障害者が特定される恐れのあることが分かり、当事者や支援団体からは「個人の属性が簡単に分かるような番号を付けるのは、あまりにも安易だ」などと批判や不安の声が上がった。
 性同一性障害者で、啓発活動に携わる野宮亜紀さん(49)は「日本年金機構はプライバシーを全く考慮していない」と語気を強めた。
 東京都の「日本性同一性障害と共に生きる人々の会」には、昨年末から性別変更を終えた人が「過去を知らない環境で生きようと転職を検討したが、新しい職場でも年金手帳から知られてしまう」などと相談を寄せている。特定されない制度に変わるまで、年金手帳の性別変更の手続きを控える人もいるという。
 野宮さんは「意味を持たない番号で個人を識別し、機構内のデータベース上で属性などを管理すべきだ」と指摘した。
 また、性同一性障害学会顧問の大島俊之弁護士は、4桁の共通番号が開示されたことを問題視。「性別変更したことを知られたくないのはプライバシーとして当然だ。なぜ開示してしまったのか」と批判した。
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 ◆制度設計に問題
 個人情報保護問題に詳しい岡村久道弁護士の話「性同一性障害の特定につながる制度設計そのものに問題があり、配慮が足りない。4桁の共通固定番号が広まり、カミングアウトを望んでいないのに見破られるとすれば、プライバシーの侵害につながる」


[産業経済新聞社 2013年5月8日(水)]