「女児殺害判決 性犯罪の再犯を許すな」

本日の朝日新聞の社説「女児殺害判決 性犯罪の再犯を許すな」は、2つの点で驚いた。


第1は「性犯罪者処遇プログラム」の内容を全く理解していない点だ。
それは以下の文面で示される。


>8カ月間にわたって週に2回ずつ講義を受けるだけだ。
>これではとても十分とはいえない。教育にもっと時間をかけるのはもちろんのこと、心理療法や薬物を使った治療も考えた方がいい。


このどこがおかしいかというと。
・「性犯罪者処遇プログラム」は「講義」ではない。
ファシリテーター(司会)はいるが、グループで経験や意見を語り合うのが主な内容である。
・ 「性犯罪者処遇プログラム」は認知行動療法に基づくものであり、心理療法である。それなのに「心理療法」もやれ、とは意味不明な主張である。
そんなことちょっと真面目に取材すれば分かりそうなものであるが。


ついでにいうと。


> だが、再犯の恐れが高い受刑者でも、8カ月間にわたって週に2回ずつ講義を受けるだけだ。再犯防止に効果を上げているカナダの取り組みにならったというが、受講時間は5分の1にすぎない。
 これではとても十分とはいえない。


とあるが、某データによれば、160時間までは、治療時間とともに治療効果は伸びていく。しかし、それ以上は、いくらやっても効果は頭打ちになる。
日本のプログラムは69セッション、で1セッションが100分。
すなわち合計115時間。
必ずしも十分とはいえないかもしれないが、それなりに効果の期待できる時間。
「これではとても十分とはいえない。」は、言いすぎであろう。


第2に驚いた点は。
化学的去勢とGPS端末とりつけに積極的な点だ。


>薬物を使った治療も考えた方がいい。
>出所する受刑者らに全地球測位システム(GPS)の端末を皮膚の下に埋め込んだりして居場所を追う動きが広がっている。
>GPS端末をつける。そうした方法を採ることもできるだろう。


この辺りの対策は、色々難しい問題が絡み、賛否両論があるところだが、サンケイや読売新聞ならともかく、朝日新聞がいきなり推進派だったのには驚いた。
まあ、賛成するのは自由だが、せめて、「性犯罪者処遇プログラム」の中身を理解してからにして欲しい。


http://www.asahi.com/paper/editorial20060929.html#syasetu1

女児殺害判決 性犯罪の再犯を許すな
 わいせつ目的で小学1年の女児を誘拐して殺した罪に問われた小林薫被告が、奈良地裁で死刑判決を受けた。
 事件が起きたのは04年11月のことだ。小林被告は下校途中の女児に声をかけ、自宅に連れ込み、浴室に沈めた。女児を捜していた母親の携帯電話に「娘はもらった」というメールを送りつけた。それには遺体の写真が添えられていた。
 犯行が残忍なうえに、遺族の気持ちをもてあそんだ。被告には性犯罪の常習性があり、真剣な反省も見られず更生は期待できない。それが無期懲役でなく、死刑を選んだ理由だった。
 裁判所の判断は十分理解できる。死刑の選択はやむをえまい。
 この事件は性犯罪者の矯正や再犯を防ぐことの難しさも突きつけた。性犯罪から子どもたちを守る手立てを改めて考える必要がある。
 小林被告は過去に2度、子どもに対する性的な事件で有罪判決を受けていた。刑務所に服役中、矯正教育を施されたが、結果的には役に立たなかった。
 今回の事件をきっかけに、法務省は矯正教育を充実させ、「性犯罪者処遇プログラム」を始めた。性犯罪による受刑者らを対象に、自分の問題点を反省させ、性衝動を抑えることを学ばせるものだ。
 だが、再犯の恐れが高い受刑者でも、8カ月間にわたって週に2回ずつ講義を受けるだけだ。再犯防止に効果を上げているカナダの取り組みにならったというが、受講時間は5分の1にすぎない。
 これではとても十分とはいえない。教育にもっと時間をかけるのはもちろんのこと、心理療法や薬物を使った治療も考えた方がいい。
 出所後、どう監視するかも課題だ。
 子どもを狙った性犯罪者が出所すれば、その情報が法務省から警察庁に伝えられ、地元の警察が監視する。そうした制度ができたのも、今回の事件がきっかけだ。
 しかし、制度が始まった昨年6月から1年間に出所した156人だけでも、14人の所在が分からない。社会復帰の妨げにならないようにとの考えから、警察官が直接会うことはせず、定期的に自宅の周りを巡回するだけだからだ。
 性犯罪者の再犯防止にはどこの国でも頭を悩ませ、出所する受刑者らに全地球測位システム(GPS)の端末を皮膚の下に埋め込んだりして居場所を追う動きが広がっている。米カリフォルニア州などに続き、フランスが採用した。韓国や英国も導入を検討している。
 刑期を終えた人に対する措置だから慎重さが必要だが、日本でも真剣に考える時期に来ているのではないか。たとえば、矯正教育や治療を重ねても、その効果がはっきりしない出所者に限って、GPS端末をつける。そうした方法を採ることもできるだろう。
 性犯罪者から子どもを守る。その対策は待ったなしだ。