トムをジェーンに。3

annojo2006-06-21

(写真はZucker氏。暗い写真しかなくてすいません。)


ニコル自身は女性というジェンダーでおちついたようだ。しかし、ジェンダーアイデンティティ・ディスオーダー(性同一性障害)は落ち着くというわけにはいかない。「障害」という言葉自身が論争の対象となっている。


1973年まで、同性愛はDSMで、精神障害のリストに載っていた。しかし、精神科医たちの激しい論争の後に、リストからはずされた。多くのトランスセクシュアルの人たちは、同じときにGIDもリストからはずされるべきだったと考える。しかし、別の人たちにとっては、GIDは便利な診断名であり続け、性別適合手術のよい候補者かどうかの決定に有用である。


GIDのあらゆる議論において、トランスセクシュリズムをめぐる政争は出現する。トランスセクシュアル活動家により激しく批判されているのだが、心理学者により行われた、ある唯一の長期的科学的追跡調査が示すところでは、子どものときGIDと診断された多くの男の子は、成長するとゲイ男性になり、女性としてのアイデンティティ持ち続けるのはごく少数でしかない。一方で、内分泌学者の研究によれば、トランスセクシュアルの脳には、共通の生物学的類似性が示されることを見出した。このことが示唆するのは、トランスジェンダリズムは、ただ単に「大きくなれば治る」というものではないということだ。


これらの議論や研究が意味することは、女性になりたい5歳の男の子たちへの対応に関して、皆の意見が一致することがないということだ。


Program of Developmental Psychoendocrinology at the New York State Psychiatric Institute の責任者であり、Columbia Universityの精神科教授である Meyer-Bahlburgは言う。「親には3タイプいる。子どもが性別にふさわしい行動をとるよう厳しくしつける親。とても支持的で、最初から子どものトランスジェンダーアイデンティティを支援する親。日和見の親。」


Kenneth Zuckerは、何百人という子どもの性同一性障害の治療経験がある心理学者で、行動修正の推進者として知られる。彼は、GIDの子どもは、トランスセクシュアルとして認定される前に、身体嫌悪についての十分な治療を受けるべきだと述べる。彼の臨床研究によれば、小児のGIDの80から90パーセントは大人のGIDにはならないという、治療効果である。ゲイやトランスセクシュアルの団体は、Zuckerに対してひどく批判的だ。というのも彼のやっていることはゲイを「治療」をしようとする宗教右翼団体を勇気付けるものだからだ。しかし、Zucker自身は、自分と自分の仕事が、そういった右翼団体と結びつかないように苦労している。


ニコルの家族の対応と、ニコルが女児として小学校に入ろうとしていることにはZuckerはこう語った。
「ニコルの両親は、トランスセクシュアルの活動家たちに扇動されたのではないか。ニコルが別の問題を抱えた子どもである可能性を無視しているのではないか。この子どもの問題を解決するよう援助する道を考えるべきではないのか。援助する反対にこの性別違和をより強固なものへとしているのではないか。両親のしていることは心理的ネグレクトの一種とみなされる可能性もあるのではないか。」


Meyer-Bahlburgはもう少し、どっちつかずの意見だ。「力づくではうまくいかない。しかしトランスジェンダーの方向に促していくことにも、はっきり賛成しかねる。というのも多くの子どもは、大人になると治るからね」。かれがGIDの男子を治療するときは、男性的活動をほめ、男性的遊びを一緒に楽しく遊ぶようにとアドバイスするという。


しかし、アンダーソン夫妻は、ニコルのような子どもたちをトランスセクシュアルとして考える専門家の意見に賛成した。ローレンは、今年の1月開催された、フィラデルフィア・トランス・ヘルス会議に参加した。そこではジェンダーが典型的でない子どもたちのことが、主たるテーマで、「何歳だと若すぎるというのか」といったタイトルの討論会もあった。その会議に参加した親たちの多くは、たとえ5歳であれ、子どもがトランスセクシュアルであることを支援するのに年齢が幼すぎるということはない、という意見に賛成のように思えた。


「わたしは、どんな人に対しても、その人ではないものであれと強要するつもりはない」と父親のトム・アンダーソンは語る。「チョコレートミルクを飲むのはもうやめましょう、とか、お気に入りの毛布で寝るのはやめましょう、といった話とは違うのだ。これは、人間の本質的ことなのだ」

第164回国会参議院厚生労働委員会 第27号 平成18年6月13日

http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kaigirok/daily/select0107/164/16406130062027a.html

>○島田智哉子君 どうぞよろしくお願いいたします。
 次に、性同一性障害GIDの低年齢児の治療とサポート体制についてお聞きいたしたいと思います。
 先月、兵庫県の播磨地域の小学校にGIDと診断された七歳の男児が女児として教育委員会、学校が受け入れているとの報道がございました。私はこの対応をとても評価いたしておりまして、個々の子供の個性に沿ったこうしたきめ細やかな対応こそが今正に求められているのではないかと感じました。
 四年前に特例法も制定され、社会の理解が深まりつつあるとはいえ、子供たちのみならず、親御さんにとりましてもとてもとても悩み続けられている方が身近にも事実いらっしゃいます。厚生労働省として、こうした子供たちのサポート体制についても是非調査研究をお願いいたしたいと思いますが、大臣の御見解をお聞きいたしたいと思います。
国務大臣川崎二郎君) 性同一性障害は、心の中で考えている性別と身体上の性別が食い違う障害であり、診療の現場においては日本精神神経学会が作成した性同一性障害に関する診断と治療のガイドラインに沿って診療が行われているものと承知いたしております。
 このガイドラインの中では、精神面の治療とホルモン療法、性別適合手術など身体面の治療があり、ホルモン療法等については十八歳以上、性別適合手術については二十歳以上で行うこととされております。これは、低年齢における性同一性障害者については、成長の過程で心と体の性別が一致していくことも多く、また治療選択に関する自己決定や自己責任等の面からも慎重を要する問題であることから、主に精神面の治療によるべきとの考え方によるものと承知いたしております。精神面の治療、患者への共感及び支持、実生活経験をさせて揺るぎなく継続できるかを明らかにする、心の性別による服装等の生活体験、うつ病等の合併症がある場合にはその治療を優先させる、このような事例でございます。
 精神面の対応としては、厚生労働省においては、性同一性障害に限らず、心の問題を抱えた子供への支援の充実を図るため、研修等を活用して子供の心の診療について専門的な対応ができる医師の確保、養成を図るとともに、保健所や精神保健福祉センターにおいて思春期精神保健に関する生活指導等を行っているところでございます。
 今委員から御指摘がありました、やはりこういった事例をしっかり私ども調査する中でまた方向性を出していきたいと、このように考えております。