特例法制定時頃の議論

参議院法制局川崎氏。P92

また、性同一性障害者が生殖機能を喪失する前に精子又は卵子を凍結保存し、それを用いて生殖補助医療により子を持つことの問題も想定され得ないわけではないが、この問題は、どのような場合に生殖補助医療を認めるかということにかかわってくるものであり、検討が行われている生殖補助医療に関する法制度の問題として、それとの関連において、どう対処すべきか判断さることになってこよう。

 

 

 

大島俊之先生

P107-108

また、法理論的にも、「現に子がいないこと」という要件には重大難点があります。次のような事例を考えてみましょう。①独身のAが、未婚の女性Bに子Cを産ませたが、認知はしていませんでした。②Aは性同一性障害の診断を受け、性別適合手術を受け、戸籍上の性別を男性から女性に変更しました。(この時点では、Cを認知していないAには、法的な子がいないことになります)。③その後、AがCを認知しました。認知には遡及効がありますので(民法784条前段)、③の時点で行った認知は①の時点まで遡ってその効力を持つことになります。したがって、Aは②の時点で子がいたことになります。そうすると、Aは「現に子がいないこと」という要件を満たしていなかったことになります。この場合には、戸籍上の性別表記の変更は有効なのでしょうか、それとも無効なのでしょうか。この問題について、特例法は何も規定していません。

 

針間

P83-84

精子保存、性別適合手術、その精子を利用して子供を持つ、戸籍変更申し立ての順番の場合、戸籍変更は、その時点で子供がいるために認められません。しかし、精子保存、性別適合手術、戸籍変更申し立てですと、戸籍変更は認められます。そして保存後に保存精子を利用すれば、子供を持つことは可能です。そうすると戸籍の性別はどうなるのでしょうか。特例法は「現に子がいないこと」という要件であり、その後に子供を持つことを禁止しているわけではありません。ただ、「生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること」という要件もあります。結局、特例法はこういった状況を想定しないために、結論は今のところははっきりしません。

 

 

 

以上、川崎、大島、針間の議論を紹介したが、その後、子なし要件は未成年子なし要件に変更になったこと、FTMの子どもが嫡出子として認められたこと、という時代の変化があり、議論の再検討は要すると思う。

うらやすだより

第167回浦安ジェンダークリニック委員会(5/17)報告

 

 ●個別症例検討:5例

   ホルモン療法開始:  1名 承認

   ホルモン療法継続:  1名 承認

   ホルモン療法再開:  0名  承認

   乳房切除術   :  2名 承認(山梨大学

   性別適合手術  :  2名 承認(行徳総合病院、山梨大学

 

     ( FTM 4名、 MTF 1名 )

   

   以上、5名が承認されました。

(社説余滴)結婚と平等、賽は投げられた 井田香奈子

朝日新聞2021.4.18

(社説余滴)結婚と平等、賽は投げられた 井田香奈子:朝日新聞デジタル (asahi.com)

 

(社説余滴)結婚と平等、賽は投げられた 井田香奈子

 国内で結婚という形を選べるのは、異性間のカップルだけだ。そこに司法が大きな疑問を投げかけた。

 

 

 札幌地裁が先月、結婚に伴う保護を同性愛者が得られないのは憲法法の下の平等に違反すると判断した。同性婚を求める人たちが起こした裁判は東京、大阪など5カ所で進むが、第1弾となったこの判決には、同性婚をめぐる議論の扉を開くカギがある。

 同性愛は長い間、「治療すべきもの」とされ、差別や好奇の目を向けられてきた。近年、理解が広がってきたが、「性的指向は、本人が選択、変更できないこと」という判決の認定が、議論のベースとなる。

 では、結婚したいのにできない当事者の状況をどう考えるか。

 裁判で国側は「同性愛者も、異性とならば結婚できる」といい、民法などの規定は差別ではないと唱えている。形式的な結婚の機会は確保されている――ということだが、いかに空疎で心ない主張なことか。

 当事者たちが求めているのは「愛する人と」結婚することだ。形ばかりの結婚は答えにならないし、本人が意図しない結婚の形を示すことで、当事者をおとしめているようにみえる。

 国が被告の裁判では、検察官や裁判官の出身者が訟務検事として代理人を務めることが多いが、ただ国を勝たせればいい、というものではないだろう。個人の尊厳を傷つける主張は許されないし、裁判がめざす正義の実現に資する向き合い方が期待されているのではないのか。

 救われたのは、判決が「同性愛者が異性と結婚したとしても、それは本人にとって、結婚の本質を伴ったものにはならない場合が多い」と、国の主張に全く取り合わなかったことだ。性的指向がどうであろうと、得られる利益に違いがあってはいけないと、国に迫っている。

 訴えは別の論点で退けられ、裁判は今後も続くが、個人の権利救済を重くみる判断は、もはや戻ることのない世界的な流れだ。先進国を中心に約30の国々が、それぞれに裁判やさまざまな議論を経て、同性婚を認めている。

 生き方の選択肢にかかわる問題だ。国会の見て見ぬふりは許されない。(いだかなこ 司法社説担当)