GID(性同一性障害)学会第20回研究大会・総会 会長挨拶

GID性同一性障害)学会第20回研究大会・総会 会長挨拶
http://gid20.kenkyuukai.jp/special/?id=23898
> GID (性同一性障害)学会 第20回研究大会を2018年3月24日と25日の両日、東京都で開催させていただくことになりました。場所は、JR中央線御茶ノ水駅1分、千代田線新御茶ノ水駅B2出口直結のソラシティ御茶ノ水です。交通の便は良く多くの方に参加していただきやすい会場かと思います。

 このたびの大会は20回という節目に当たる大会です。私自身第1回目から毎回参加し、学会でのこれまでの歴史や発表や議論、人との出会いと別れ等思い出すことが多々あります。また若輩者として参加してきた私が、このたび学会長の務めを果たす立場になるとは、まさに歳月の流れを感じざるを得ません。ただし、過ぎ去りし歳月をただ振り返るだけではなく、現在のわれわれが将来に向けて、どのようなことを考え、何をなすべきという、未来に向けても意義のある学会にしたいと考えました。

 そこで、学会のテーマを「性別を越える、性別を超える。二元論からの飛翔。」にいたしました。「性別を越える」は言うまでもなく、男性、女性の性別の境界を越える、という我々の中心的命題を意味します。ただ、ジェンダーの多様な在り方を考えると、医学的、あるいは法的、社会的に男女の性別の境界を越えることばかりが、普遍的な解決とは限りません。すなわち、従来の性別概念の枠組みを超え、新たな自分らしいアイデンティティを形成していくことも、もう一つの視点として考慮すべきことかと思われます。この視点が「性別を超える」ということです。「二元論」という言葉からは、多くの人が「男女二元論」を連想すると思います。ですから「二元論からの飛翔」には、「性別を超える」と同様に、従来の古典的男女概念から脱却し、新たなジェンダーのありようの構築といった意味が込められています。ただ学会テーマの「二元論」は、男女二元論に限定したものではありません。我々の周りには、ほかにもいくつかの二元論に基づく議論が渦巻いています。たとえば、「身体」と「心」という二元論があります。「身体の性別と心の性別が一致しない」、という表現がよく使われます。しかし、「身体」と「心」は単純に二分されるものでもありません。「心」は「身体」の一部である脳の働きによる現象ですし、「身体」も「心」の影響で変わっていくものです。「正常」か「異常」か、という対立もあります。疾患概念ではない「トランスジェンダー」か、疾患概念の「性別違和」か、という議論は、常に沸騰しています。ただこういった議論は、真理の探究というよりも、同じ現象に対し、どのような視座で捉えるかという、個々の信念やポリシーの表明という側面が強いという気もします。このようないくつかの二元論がある中、対立的に二つの概念に分けてとらえるのではなく、より高い視点から統合的に深く広くとらえるため、大空に飛翔しよう、といったテーマなのです。近く改定される予定のICDでは「性同一性障害」は「Gender Incongruence」と名前が変更されるだけでなく、精神疾患でも身体疾患でもない第3のグループとして分類され、さらにグループ名では「Conditions related to sexual health(性の健康に関する状態)」と「condition」という言葉が使われ、疾患としての明確な位置づけは留保されています。まさに「二元論からの飛翔」がそこでも起こっているのです。

 しかしながら、理念や思弁が先走りしすぎるのは、議論が空疎なものになりかねません。学会では上記のテーマを掲げながらも、経験やエビデンスに基づき、内容の濃い議論をしていきたいと思います。専門家の方々、当事者の方々、関心のある方々、多くの人においでいただき、実りある20回目の学会としたいと思います。ご参加をお待ちしています。

GID性同一性障害)学会 第20回研究大会・総会 会長
はりまメンタルクリニック
針間 克己