マイナンバーで性同一性障害者 アンケート7割が懸念

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201510/CK2015102902000253.html
マイナンバーで性同一性障害者 アンケート7割が懸念

東京新聞
2015年10月29日 夕刊

 マイナンバー制度で使われるカードに戸籍上の性別が記載されることに、心と体の性が一致しない性同一性障害の人たちが不安を募らせている。当事者団体が約三百人に行ったアンケートで、性別記載のカードを職場に提示することについて、「問題が起こる」「何が起きるか分からないので見せたくない」との回答が計70%を超えたことが分かった。


 戸籍とは違う性を申告して働いている人が少なくないためで、自由記述には解雇や生活難への不安から「自殺を考えている」との深刻な声も寄せられた。


 アンケートは「日本性同一性障害と共に生きる人々の会」が九月、ホームページで実施。回答者には当事者のほか、家族らも一部含まれる。「求めに応じて雇用主にカードを提示し、番号を告知しなければいけないことを知っているか」との質問に計35%が「あまり知らない」「全く知らない」と回答。制度への理解は浸透していない実態も浮かんだ。


 「提示すると問題が起こると思うか」との質問に「起こらない」と答えたのは16%だけ。「分からない」も13%いた。自由記述では複数の当事者が「虚偽記載などで解雇されるリスクがある」「生活が成り立たなくなったら自殺を考えている」などと回答した。


 マイナンバーでは、割り当てられた番号の通知カードの配達が十月からスタート。来年一月からは希望者に個人番号カードが交付され、いずれのカードにも性別が記載される。


 総務省性同一性障害の人に配慮して、個人番号カードの性別欄などを目隠しするケースを配る方針だが、当事者団体は「見られるリスクが消えたわけではない」として十月、カードから性別欄を削除することなどを政府に要望した。


朝日新聞
http://digital.asahi.com/articles/ASHBN6GP4HBNPXLB010.html?rm=482
マイナンバーカード「戸籍の性別漏れる」 不安訴える声

杢田光

2015年10月27日19時24分

 マイナンバー制度で配られるカードに性別が記載されることに、不安を訴える声が上がっている。身体的な特徴で分けられた性別と、心の性別が異なる「性同一性障害」の人たちだ。


 今月から配布される「通知カード」には、個人番号と名前、住所、生年月日、性別が記され、来年1月から希望者に配られる「個人番号カード」にも顔写真やICチップつきでこの4情報が載る。一方、身分証明によく使われる自動車運転免許証に性別欄はない。地方自治体も当事者への配慮から、印鑑登録証明書の性別欄をなくす動きが進み、昨年4月には「精神障害者保健福祉手帳」から削除された。

 一般社団法人「日本性同一性障害と共に生きる人々の会」(東京)には、従業員らがカードを示して個人番号を会社に伝える際、「戸籍の性別が漏れる」不安が寄せられてきた。9月にネット上で実施したアンケートでは、回答した309人の約4割(121人)が、雇用主への提示で問題が「起こる」と訴え、「何が起きるか分からないので見せたくない」も約3割(99人)いた。「いじめや偏見にさらされ、職場にいられなくなるのでは」(20代)との声もあった。

 ログイン前の続き職場で女性として受け入れられてきた神戸市の元派遣会社員(52)は先月、制度の導入で周囲に戸籍の性別が知られるのをおそれ、3年ほど勤めた会社を辞めた。「マイナンバーのせいで、どん底に落とし込まれた」と話す。「マイナンバーを出さなくていい会社となると、闇の仕事しかないのかも」と思い詰める。

 総務省は、個人番号カードの配布時に性別や個人番号などが隠せるビニールケースを配る予定だが、外すのは容易で、同会は「根本的な解決にならない」とみている。国税庁が事業者向けに作成した本人確認方法の説明資料では、個人番号が自分のものに間違いないと申し立てる「申立書」でカードを代用できるとしており、その場合は性別を記す必要はない。ただ、各企業の運用方針は不透明だ。

 アンケートを呼びかけた同会副代表の倉嶋麻理奈さん(57)=和歌山市=は「戸籍の性別を明かすのが苦痛で、非正規雇用に就く人も多い。それすらできなくなるなんて、仕事をするなと言っているのと同じ。記載を考え直してほしい」と話す。調査結果はホームページ(http://gid.jp/別ウインドウで開きます)で。(杢田光)



http://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/column/14/346926/090200332/
個人番号カード普及に妙手?総務省がカードケースを配布へ

2015/09/08
大豆生田 崇志=日経コンピュータ (筆者執筆記事一覧)
 2016年1月から、マイナンバーの個人番号カード配布が始まる。総務省は、そのカードを収納できる専用ケースを配布する方向で話を進めている。ケースに入れれば、カードに記載された情報の一部を隠すことができる。

 プライバシーへの配慮に加えて、カード裏面に記載されたマイナンバーなどを法定外に利用されないようにする目的がある。希望者に配るカードの枚数を、できるだけ増やそうという狙いも見える。

 希望者に無償交付する個人番号カードは、表面に氏名や住所、生年月日、性別、個人番号、顔写真を記載することが法律で定められている。住所変更などで利用するサインパネル領域や、臓器提供の意思表示欄も設けられる。

 マイナンバー法改正案の国会審議では、個人番号カードに記載された情報が見えてしまうことを、プライバシーの面から問題視する意見が出ていた。例えば、性同一性障害者にとって性別は知られたくない情報である可能性が高く、配慮が必要だという指摘があった。臓器提供の意思表示欄が見えないように、貼って隠すためのシールを配ろうとする動きもあった。

 しかし個人番号カードに性別などを記載しないようにするには法改正が必要だ。カードにシールを貼ると、電子機器に挿入できなくなる恐れもある。そこでカードを収納するケースを配布し、性別や臓器提供意思表示欄のほか、裏面のマイナンバーも隠せるようにするという。

 個人番号カードの裏面に記載されるマイナンバーは、法律に規定された手続き以外では利用できないので、例えばレンタルビデオ店マイナンバーのあるカード裏面をコピーするのは違法となる。こうした安易な“違法コピー”を防ぐためにも、カバーが役立つのではと期待されている。
実は一部の地方自治体では、独自にケースの配布を検討していた(図)。自治体の中には、高齢者に「老人福祉カード」などの独自カードを配って、自治体の提供するサービスを利用できるようにしているところがある。ただし、自治体の独自カードは、コストや手続きの煩雑さなどの面から写真を掲載しないケースがほとんど。名前などでしかサービス利用者の本人確認ができないため、なりすましが起きる恐れがあった。
 ケースがあれば、利用者は自治体独自のカードと個人番号カードを一緒に持ち歩きやすくなる。自治体サービスの施設側も、個人番号カードの顔写真で本人確認ができるようになる。これにメリットを感じた自治体の中には、ケース製造業者に実際に見積もりを依頼する動きも出ていたという。

 総務省によると、個人番号カードケースの配布は地方公共団体情報システム機構(J-LIS)が担う。J-LISは地方公共団体の共同運営組織で、自治体からマイナンバーの通知カードや個人番号カードの発行に関連する事務を委託される。総務省は、ケースの配布方法は検討中で、自治体に新たな費用負担は発生しないとしている。自治体から住民にも、無料でケースが配られる可能性が高い。

写真の本人確認のために顔認証システムも導入

 総務省は、自治体の窓口にWebカメラを利用した顔認証システムも整備する方針だ。個人番号カードの交付申請は、スマートフォンなどで申請書にあるQRコードを読み取って写真を撮影すれば、オンラインで可能。しかし個人番号カードを受け取る際には、自治体の窓口で職員が本人確認をする。

 確認の際には、写真と実際の本人が同一人物だと視認できない場合も想定される。そのために顔認証システムを導入し、同一人物かどうかを判定させるようにするという。

 総務省は個人番号カードケースの配布や顔認証システムの整備にかかる費用は、いずれも2015年度のマイナンバー関連予算から捻出するとしているが、金額は明らかにしていない。個人番号カードについては、自民党が2016年3月末までに1000万枚、2019年3月末までに8700万枚を普及させ、内蔵ICチップに搭載した「公的個人認証」の民間活用を促すとしている。果たしてケースの配布が、カード普及への妙手となるかどうか注目される。