性同一性障害:受刑者への「ホルモン治療不要」通達に批判

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性同一性障害:受刑者への「ホルモン治療不要」通達に批判
2012年3月31日 15時0分 更新:4月1日 9時21分

 刑務所や拘置所内の性同一性障害の収容者について、法務省がホルモン療法を行う必要はないとする処遇指針をまとめ、全国の施設に通知していたことが分かった。ホルモンは体を心の性別に近づけるほか健康維持の役割もあり、医療関係者は「治療を中断すると深刻な問題を引き起こす恐れがある」と問題視している。【丹野恒一】

 処遇指針は昨年6月1日付で、同省矯正局成人矯正課長と矯正医療管理官の連名で通知された。性同一性障害の受刑者らの医療措置や居室、入浴、身体検査、衣類、調髪、カウンセリングなどの標準的な対応を記している。

 このうち医療措置では、収容施設で性同一性障害を診断するのは「対応困難」とした上で、ホルモン療法についても「極めて専門的な領域に属する」「実施しなくても収容生活上直ちに回復困難な損害が生じるものと考えられない」と、医療措置の範囲外だとした。

 性同一性障害学会理事長の中塚幹也・岡山大教授(産婦人科学)は「治療をやめると性ホルモン欠落状態になる。1週間ほどで更年期症状が表れ、数カ月でかなり重い骨粗しょう症になる」と指摘。また「女性の体であることを強く自覚させる月経が嫌で、自殺を考える患者も少なくない。ホルモン療法を止めれば月経が再開してしまう」とも懸念する。

 当事者団体の「日本性同一性障害と共に生きる人々の会」は「女性の心を持った人を男性収容者の中で処遇するなど、指針は他にも問題点が多い」(山本蘭代表)とし、改善の要望書を近く、法務省に提出する予定。

 同省矯正局は「健康上の問題が起きたという報告はなく、仮にあれば個別に判断して治療は行う。ただ、原則として認めてしまうと『胸を大きくしたいから女性ホルモンが必要』というわがままのような要求まで通ることになる」と話す。

 同省によると、昨年末現在で医師から性同一性障害と診断されたり、同様の傾向があったりする収容者は全国に約40人。収容施設は、心の性別ではなく戸籍の性別で分けている。

 ★性同一性障害 身体的な性別と心理的な性別が一致せず、強い違和感に苦しむ疾患。精神科的な治療だけでは苦痛の改善は困難とされ、多くの当事者が男性・女性ホルモンの投与を受けている。04年に特例法が施行され、戸籍の性別変更が認められるようになったが、生殖器の切除、摘出など厳しい条件が付いている。国内に1万人以上いると推計されている。