【ボーダー その線を越える時】第2部(6)性分化疾患

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【ボーダー その線を越える時】第2部(6)性分化疾患
産経新聞 2月27日(日)7時57分配信

 ≪分化≫

 ■「男か女か分からず生まれ」

 「女にしか渡さないはずなのに、なぜ俺に?」

 繁華街で手渡された小さな袋。ポケットティッシュだと思って受け取ったものは、生理用ナプキンの試供品だった。

 さいたま市の文筆業、石巻拓海(41)=仮名=は幼い頃からよく女性に間違われてきた。ホルモンや染色体の異常により、男女の特徴をさまざまな組み合わせで持つ性分化疾患の患者だ。

 「半陰陽なら自分で性を選べる」。石巻はある日、同じ疾患を抱える患者の輪を広げるために開設している自身のブログに、こんな書き込みがあるのを目にして思った−。「性を自分で選んで生まれてくる人なんていない。男女どちらか分からない状態で生まれてきたから困っている」

 大阪府の橋本秀雄(49)は「オバハンみたいなオッサンやろ」と大きな声で笑う。ふっくらとした体つき、薄いひげ…。性分化疾患自助グループ「PESFIS」を主宰する。

 生まれつき小さかった男性器は3歳になっても発達せず、男性ホルモンの投与を受けた。だが効果はなく、その後、治療は行われてこなかった。橋本はそのことを知らずに育った。違和感を覚え続けてきた橋本が32歳で聞き出すまで、母親は疾患の話を一切しなかった。

 「普段は下着で隠しているから関心が遠のいていくのだろう。あるがままを受け入れたなんてきれいなものじゃない。あきらめたということ、親も自分も」

 ◆疾患隠す親

 「性の問題は隠しておきたいこと。子供は親に教えてほしいという場合が多く、親から本人に伝えることが自立に繋がることも研究から分かってきているが親は隠したがる」

 こう話す国立成育医療研究センター(東京)の研究所部長、緒方勤(54)は普段タブー視されている「性」に関する疾患と向き合う難しさを指摘する。

 「性に対する秘匿性、特殊性が正しい知識の普及を困難にしている」

 かつて《半陰陽》《両性具有》などと呼ばれていたこれらの疾患は平成21年、日本小児内分泌学会が、性分化疾患と呼称を統一した。

 「男」と「女」が存在する社会の中、子供を性差の境界上に置いて性別をあやふやにしたままの状態で育てていくことは、ほとんど不可能といえる。

 性分化疾患の患者を20年間診察してきた大阪府の男性医師(63)は「(性分化疾患の患者は)珍しいため出生時に診て混乱する医師がほとんど」と指摘して、こう続けた。「少し前まで、男性器が小さいなどの場合は手術が簡単だということで、女性としての道を勧める医師もいた」

 ◆進まぬ理解

 「社会が性分化疾患を夢物語のように思っている」。都内のモデル、中島静(34)=仮名=は憤る。中島には、子宮や卵巣とともに男性のような外性器もある。

 14歳のころ「こんな体で生きていていいのか」と悩んだが、翌年、夢だったモデルの仕事を始めてから気にならなくなった。

 中島の場合、治療も特に必要なく、望めば子供も持てる。気にかかるのはむしろ、ほかの患者のことだ。高校生の頃に会った患者の少女は男性のようになる外見に悩み、自殺未遂を繰り返していた。

 中島は性分化疾患が知られていないことがもどかしい。

 「体の疾患としてホルモンバランスがおかしかったり薬を飲んでないと生きられない人たちが、もっと社会に受け入れられてほしい」

 =敬称略、第2部おわり(この連載は高橋裕子、高久清史、田中佐和が担当しました)

【用語解説】性分化疾患

 性染色体の構成や精巣、卵巣といった性腺など、男女の性別を決める身体の特徴をさまざまな組み合わせで持ち、性別判定が難しい疾患の総称。疾患数は60種類以上、国内の患者数は約6500人と推計されている。不妊の傾向が強く治療をしなければ生命に関わる場合もある。原因や将来的な発達を踏まえ、出生後早い時期に養育する上での性を決められるよう厚生労働省研究班は昨年12月、国内初となる初期診療の手引を公表。今後、より科学的根拠の高い指針の作成を目指す。

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