境界を生きる:性分化疾患 番外編 「悲しみ」より「強さ」前に 六花チヨさんに聞く

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境界を生きる:性分化疾患 番外編 「悲しみ」より「強さ」前に 六花チヨさんに聞く
 ◆漫画「IS〜男でも女でもない性」作者の六花チヨさんに聞く

 ◇「勇気もらった」の声に応え/漫画だからこそ対象幅広く/世間の理解、進んでほしい
 染色体やホルモンの異常が原因で、男性か女性かを区別しづらい「性分化疾患」。この病気をテーマに女性向け漫画誌「Kiss」(講談社)で今年7月まで7年間連載された作品がある。「IS(アイエス)〜男でも女でもない性」。作者の六花(ろくはな)チヨさんに、作品に込めた思いを聞いた。【丹野恒一】

 「IS」は性分化疾患を指す言葉として使われてきた「インターセックス」を略したタイトル。主人公の星野春(はる)は医学的に男女両方の特徴を持って生まれる。両親は一応「女性」として出生届を出すが、春は逆に自分を男と感じながら成長し、思春期になると今度は心に反して体が女性化していく。不安定な心と健康面の問題を抱えた春の未来は−−。

 六花さんは三重県在住の2児の母。連載前には編集者から「とてもデリケートな題材なのに、娯楽作品で描けるのか」という意見もあったが、インターネット上で活動する自助グループ「三毛の庭」(http://www.mikeniwa.net/)が全面的に協力。約15人の当事者や家族が取材に応じた。親たちから子どもが性分化疾患だと知った時の衝撃や悲しみを直接聞いた時には、一緒に泣いてしまったという。

 強く印象に残っていることがある。生殖能力がなく、子孫を残せないことが多い性分化疾患だが、当事者が「私たちは自然界から淘汰(とうた)されていくべき存在なんだ」とつぶやくのを耳にした。その言葉に深い悲しみを見た。

 でも、描き進める際、悲しみをそのまま描くことはしないよう心掛けた。当事者やその親から寄せられる反響には「(子どもの)将来が不安で仕方がないが、主人公の強い生き方に勇気付けられている」との声も多かった。期待を裏切りたくなかった。

 物語は、主人公・春がケーキ職人を目指して進学した高校で出会う男子同級生との、友情とも恋愛ともつかない関係を軸に展開する。

 重いテーマだが、六花さんは漫画だからこそ果たせた役割があったと思っている。「元々関心のある人ではなく、漫画が好きで偶然に手に取ってくれるような人たちに読んでほしかった。かつての自分と同じように、情報や知識がないことで偏見を持つ側に回るかもしれない人にも伝わるよう、恋愛モノの娯楽性を持たせながら分かりやすく描いた」

 連載は当事者や家族にも注目されてきた。「三毛の庭」を運営する足立みのりさん(仮名)は「独りで悩んでいた人たちがグループに参加してくるようになった。世間が少しずつ変わっていくのを感じている」と話す。

 「どこかでふと『IS』を読んでくれた人の心に小さな変化が生まれ、徐々に積み重なって理解が進んでいく」。六花さんはそんな日が来てほしいと願っている。

毎日新聞 2009年11月15日 東京朝刊