美しい英語スピーチ

2008.12.10読売北陸
http://hokuriku.yomiuri.co.jp/hoksub4/milk/ho_s4_08121001.htm

美しい英語スピーチ
北陸日米文化協会常任理事 木谷 泰

 次期米大統領バラク・オバマ氏のスピーチは素晴らしい。スピーチというより「詩」に近い。格調高く厳格な言語選択。大洋のようにうねる「夢」のリズム。原稿もなく、何時間も話す。何世紀もの間、歴史に封印されていたものが、終盤のキャンペーンや熱狂の勝利宣言で迸った。

 オバマ氏のスピーチに感動する傍ら、高円宮杯全日本中学校英語弁論大会の東京での決勝予選が気になっていた。やがて一報が入り、残念ながら県代表の3人は決勝に駒を進めることができなかったと知った。

 決勝予選は熾烈である。北は北海道から南は沖縄まで、地方大会から約2200校の頂点を競う。しかも、今年は60回の記念大会。激戦は当然、予想されていた。

 県大会では次があるので、あえて辛口の講評をしたが、3人ともスピーチの後半に迫力があった。まだ荒削りながら、まさに全国水準である。県大会でとどまった他の生徒も、世界のどこへ出しても恥ずかしくないスピーチであった。先生、生徒双方への敬意を禁じ得ない。

 60回大会の節目に振り返って特記すべきことは、北陸学院中学が昨年まで6年連続で決勝予選進出を果たしていることだ。その間、準優勝1回、入賞(7位)1回。高円宮妃殿下臨席のレセプションで入賞スピーチを行い、英国研修のご褒美にも与った。

 先日の英字紙ザ・デイリー・ヨミウリに、今大会の優勝者、沖縄の下里豪志君のスピーチ全文が掲載されていた。内容は、幼少の頃から女の子とばかり遊んで幸せだった記憶。そして、やがてその自分に困惑の目を向け始める。いわゆる「ジェンダーアイデンティティー・ディスオーダー」(性同一性障害)を知る。

 同性からの蔑視と迫害の中、幸せにピアノを弾いて賞賛を得る女の子を見て、ピアノに打ち込むことを決意する。多くのコンテストで賞を得た。中でも、地域最大の「琉球音楽コンテスト」で優勝。自分が最も美しいと思う着物を着て、唖然とする来賓歴々の前でピアノの最後のキーを叩き終えた時、聴衆は立ち上がって喝采した。何にも勝る喜びは、みんなが「笑顔」を向けてくれたことだ、と。

 スピーチには皇太子殿下が臨席され、言葉を贈られた。伝統の60回大会にふさわしいハイライトであったろう。どこかオバマ氏と重なる。

(2008年12月10日 読売新聞)