性同一性障害

 http://www.yomiuri.co.jp/iryou/medi/saisin/20080208-OYT8T00489.htm
性同一性障害
手術は「心の性」で生活の後
 「体の性」と、本人の自覚する「心の性」が違うことで苦しむのが「性同一性障害」だ。そこで、身体のほうを変える性別適合手術が、岡山大病院などで行われている。いきなり手術するわけではなく、精神科の診察と助言、ホルモン治療など、段階を踏んで進められる。(大阪科学部・阿利明美

米国のデータでは、「体は男性で、心が女性」の人が3万人前後に1人、「体は女性で心が男性」の人は10万〜15万人に1人とされている。
 前者では、幼少期から女の子の服装をしたいと思い、成長につれ、陰茎などの存在が我慢できず苦しむ人が多い。
 後者では、幼少期からスカートや人形に興味を示さず、月経や胸のふくらみなど体の変化を嫌悪することが多い。
 こうした意識は、親の育て方でも、思春期に性ホルモンの分泌が増えても、変わらないことがわかってきた。
 脳には性差があり、胎児期に脳が形成される際、男性ホルモンの量などによって「女の脳」「男の脳」に分かれる。これが本人の自覚する性別に関係すると考えられている。このため、すでに固まっている心の性を、「体に合わせる」のは無理なわけだ。
 日本精神神経学会は1997年、性同一性障害の診断と治療の指針を定め、98年に埼玉医大で初めて大学倫理委員会の承認を得て性別適合手術が行われた。
 治療は、主に3段階に分かれる。
 最初は精神科を受診する。生活歴などを聞き、自分の性の認識と、体への違和感が続いていることを確かめる。2人の精神科医の意見が一致すれば、診断が確定する。
 岡山大病院精神科神経科助教の松本洋輔さんは「まず本人が求める性で実生活を送るよう提案する。徐々に周囲の理解を得て性別適合手術を受ける適応力があるかどうかを見ていく」と説明する。
 それまでと異なる性別での生活を送ることに伴う様々な困難に対処できるなら、性染色体なども確認し、ホルモン療法へ進む。学会指針では18歳以上が条件で、20歳未満は親権者の同意が必要になる。副作用の恐れから、高血圧や糖尿病などがある場合は慎重な検討が必要だ。
 女性ホルモンを使うと乳房が膨らみ、体には脂肪がたまり、精巣は委縮する。
 男性ホルモンを使用すると月経が止まり、脂肪が減り、体毛が増える。この段階で、乳房の切除を形成外科や美容外科で受ける。
 希望する性での生活を、少なくとも私的な場では1年以上続けたうえで、本人が強く望み、生活に支障がなければ、性別適合手術へ進む。こちらは20歳以上に限定される。
 手術しても、生殖機能は得られない。ホルモン療法は、骨がもろくなる骨粗鬆(そしょう)症を防ぐ目的もあり、一生続ける。
 健康保険がきくのは精神科領域と体の検査だけ。ホルモン治療は月5000円前後、手術は女性の体になる場合で百数十万円程度、男性の体になる場合は百万〜数百万円かかる。
 対応できる医療機関は少ない。岡山大では2001年以降、60人以上の性別適合手術をしたが、待機患者は多く、手術は数年待ちの状態だ。
 戸籍の性別変更は、2004年に施行された特例法で、性別適合手術の後、家裁の審判で可能になった。結婚している場合や現に子供がいる場合は認められていない。
性同一性障害の治療を行う主な病院
精神科、形成外科などのチーム体制がある施設 (◎は性別適合手術まで実施)
◎札幌医大 (電)011・611・2111 初診予約は当面休止中
 埼玉医大総合医療センター (電)049・228・3400 適合手術再開を検討中
◎ナグモクリニック東京 (電)03・3490・0555
◎関西医大滝井病院 (電)06・6992・1001 初診はホームページ参照
◎岡山大 (電)086・223・7151 適合手術は数年待ち
 福岡大 (電)092・801・1011
 長崎大 (電)095・849・7200 適合手術は検討中
精神科領域のみ
 あべメンタルクリニック(千葉) (電)047・355・5335
 埼玉医大かわごえクリニック(埼玉) (電)049・238・8111
 岡山県精神科医療センター(岡山) (電)086・225・3821
 さとうクリニック(岡山) (電)086・943・0880
(2008年2月8日 読売新聞)