ほんとうのじぶん ―性同一性障害の子どもたち 7.教 員

http://www.kobe-np.co.jp/rensai/200607gid/07.html

7.教 員 (2006/08/07)
「男女」ぬぐえぬ先入観

 性同一性障害の中高生にとって、以前、「駆け込み寺」のような保健室があった。

 その主(あるじ)、元東京都立高校養護教諭高橋裕子さん(62)は、テレビドラマ「3年B組金八先生」で性同一性障害が扱われたとき、養護教諭のモデルになった。定年まで定時制高校に勤め、この障害を抱えた子ども七人の相談に乗った。男子で高校に通学した翔(しょう)子(こ)=仮名=など、他校生も高橋さんの保健室に姿を見せた。

 制服やトイレなど、性別で明確に分かれる学校空間は、この障害の子どもたちが強い苦痛を感じる場所でもある。高橋さんは、「教員の評価を気にせず唯一入ってこられる」保健室で、そういった子どもたちを待ち続けた。

◇   ◇

 高橋さんがこの障害に本格的にかかわり始めたのは、十五年前の九月。二年の義(よし)雄(お)=仮名=が、突然ミニスカートで登校してきた日だ。

 まだ性同一性障害という言葉が広まっていないころでもあり、周囲は混乱した。高橋さんは、義雄と保健室でたびたび障害について話した。

 意外にも女子は受け入れた。「義雄は義雄なんだから変わらないよ」。男子と男性教諭の一部が、なかなか納得できない様子だった。

 配慮が足りなかったと気付いたのは、健康診断だった。上半身裸になった男子の中で、義雄は胸を隠してかがみこんでいた。以来、診断は一人ずつ呼び込む形に変えた。

 修学旅行では、義雄を高橋さんと同じ部屋にしたところ、女子が迎えに来た。

 「義雄、私たちの部屋に来ていい?」

 本人に選ばせた上、義雄は結局女子部屋に移った。女子の保護者からの苦情は、一切なかった。

 高橋さんの保健室には、いろんな生徒が来た。

 「ティッシュちょうだい」

 野(や)暮(ぼ)用に見せかけて来室し、話をしているうちにカミングアウトした生徒もいる。「男なのか女なのかはっきりしてくれないと困る」と高校入学時の面接で言われ、その日に陸橋から飛び降り自殺を図り、未遂に終わった他校生の話も聞いた。

 教員からの相談も多い。心は女だという男子生徒が机をたたいて抗議したことを、ある教員は「やはり男だ」と言った。別の教員は、自分が男だと主張する女子生徒が泣くのを「めそめそするのは女特有の逃げだ」と非難した。

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 学校は、性別による取り扱いの差が激しい場所だ。高橋さんの生徒らが性同一性障害の中高生を対象にしたアンケート調査では、制服や健康診断、プールなどで我慢しているケースが多かった。

 「この障害の知識は持っていても、実際に教員が受け止めるのはしんどいのだろう」。高橋さんは「そういう子は、教員自身が持っている『男らしさ』や『女らしさ』の先入観を壊すから」と分析する。男だと主張する生徒に月経がくるのがこの障害だ。

 「言葉遣いや行動が少しでも男っぽいと、『君は女じゃなかったのか』と言われていないかな」。高橋さんは、兵庫県播磨地域で女児として受け入れられた優(ゆう)(7つ)=仮名=のことを気遣っていた。「男、女と分けず、その子を丸ごと受け止めてほしい」