性転換手術で死亡、大阪の形成外科院長を書類送検へ

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2002.4.2.朝日新聞
性転換男性、術後に死亡/美容整形の女性も/大阪のクリニック/性同一性障害 待ちきれず診療所へ

メモ :
大阪市北区堂島2丁目・形成外科「わだ形成クリニック」(和田耕治院長)で2002年2月、女性への性別適合(性転換)手術を受けた男性の様態が手術後に急変、搬送先の別の病院で死亡していたことが2002年4月1日、わかった。
同クリニックではその直前にも、美容整形手術を受けた女性が同市内の病院に救急搬送された後で死亡している。
大阪市は立ち入り検査を実施。大阪府警天満署も2人を司法解剖し、関係者から事情を聞いている。

西日本に住んでいた男性の遺族らによると、男性は自分の性に違和感を抱いて別の性になりたいと願う「性同一性障害」の症状に悩み、2002年2月25日に同クリニックで手術を受けた。だが、手術後に様態が悪化。翌26日早朝、同クリニックからの119番通報で、大阪市内の病院に救急搬送されたが、約1時間後に死亡した。肺に水がたまる肺浮腫を起こしていた。

和田院長は遺族に対し「腰椎麻酔に加え、男性の恐怖心を取り除くために静脈に麻酔薬を少しずつ入れて、意識を薄れさせた。手術後に男性が呼吸困難に陥った。原因は分からない」などと説明したという。

天満署は搬送先の病院からの連絡で、男性を司法解剖した。大阪市も3月中旬、同クリニックの診療体制を調べるため、職員が医療法に基づいて立ち入り検査した。

性別適合手術は、国内では「性同一性障害」の患者に対し、埼玉医大と岡山大の2施設が公に実施している。医療倫理の観点から、学会のガイドラインと学内の倫理委員会の承認に基づいて手術されているが、それ以外の施設で実施されている実態はわかっていない。

同クリニックではあごの整形手術を受けた女性が、2002年1月14日に同クリニックからの119番通報で緊急搬送され、3週間後に死亡した。

女性への「性別再指定手術」を受けた30歳代の男性は、夢見ていた自分の新しい身体を見ることなく逝った。「わだ形成クリニック」で、手術後に男性が急死した問題は、心と体の性が一致しない「性同一性障害」の患者が潜在的に多く、その対策が急務となっている現状を改めて浮き彫りにした。

性別適合手術は「性同一性障害」の患者への最終的な治療とされるため、倫理面から議論されてきた。
国内では1998年10月、埼玉医大が初めて学内倫理委員会の承認を得て実施。これまで同大で9例、岡山大で5例の手術が実施されている。

埼玉医大の医師は「患者は体への違和感から精神的に追い詰められている人も多い。体だけではなく、精神的なケアが必要」と話す。
手術前には約2年間にわたってホルモン療法が施される。手術は家族らの同意を得た上で、形成外科、婦人科などの医師がチームで取り組む。術後も定期的にカウンセリングを行い、患者のケアに気を配っている。

だが、待ちきれずに、口コミなどで手術を手がけている小規模診療所を探して駆け込むケースがある。死亡した男性もそうだった。
遺族らによると、中学生のころから「性同一性障害」に悩み、手術を強く望んだ男性は、大学病院を薦める家族に対し、「年齢を考えると、大学病院は手術までに時間がかかりすぎる」と答えたという。

性別再指定手術に詳しい医師は「手術には4〜5時間かかるし、出血の心配もあるので麻酔科医のサポートは不可欠だ。痛みの大きい部位なので、術後も1週間以上は入院が必要」と話す。


対応追いつかず  日本精神神経学会理事の中島豊璽・岡山県岡山病院長の話

「学会が把握する限りでは、性同一性障害について、これまで約1000例の診療件数があるが、診察に訪れない患者もおり、実数ははるかに多いはずだ。手術希望者に対して実施病院が少なく、対応が追いついていない現状がある。」


性別適合手術
性別適合手術」の治療として欧米などでは定着している。国内では理由無く生殖を不能にする手術が禁止され、1969年、男性の睾丸を摘出した医師が優生保護法(現母体保護法)違反で有罪判決を受ける事件があった。
このため手術は長年タブー視されてきたが、日本精神神経学会は1997年5月、精神、ホルモン療法では治療に限界がある
家族らの同意―などの条件をつけて手術を認めるガイドラインを作成した。
厚生労働省は「医学的に必要不可欠な手術であれば、違法とは言い切れず、個々の事例に即して判断されるべきもの」との立場だ。

http://www6.plala.or.jp/fynet/2scrap162-ts-tg-2002.html#162a020402m31


2003年8月5日 大阪市で美容整形のミスで死亡

 大阪府内の美容・形成外科「わだ形成クリニック」(大阪市北区)で、あごの美容整形手術を受けた後に死亡した30代女性の遺族が、手術したわだ形成クリニックに約8600万円の損害賠償を求めた訴訟で和解が大阪地裁(中本敏嗣裁判長)で成立した。同クリニック側が損害賠償金として5860万円を支払う。
 同クリニックでは昨年2月、性同一性障害に悩む30代男性が性転換手術を受け翌日に死亡した。府警天満署が業務上過失致死で、この2人を司法解剖した。カルテの任意提出を受け、院長から事情を聴くなど調べを進めている。
http://www.dokkyomed.ac.jp/dep-k/cli-lab/iryoujiko/iryoujiko03_7-12.html


2005.6.17.NHK
性転換手術死亡で書類送検

3年前、大阪市内の医院で、性転換の手術を受けた男性が、呼吸困難になって翌日に死亡し、大阪府警察本部は、手術を行ったこの医院の院長が、すぐに転院させるなど適切な措置を怠ったために死亡した疑いが強まったとして、近く業務上過失致死の疑いで書類送検する方針を固めました。
(06/17 15:20)
http://www3.nhk.or.jp/knews/news/2005/06/17/t20050617000090.html


2005.6.17.毎日新聞
性転換:
術後死亡で大阪市北区の執刀院長を近く書類送検
 大阪市北区の美容・形成外科「わだ形成クリニック」で02年2月、性転換手術を受けた男性患者(当時35歳)が手術後死亡した事故で、大阪府警捜査1課などは17日までに、執刀した和田耕治院長(51)を近く業務上過失致死容疑で書類送検することを決めた。

 調べなどによると、男性は「性同一性障害」の解消のため同年2月25日に手術。その後、肺浮腫を起こし、翌26日に別の病院で死亡した。

 これまでの捜査で、男性は麻酔の副作用で呼吸困難になったことが判明。和田院長が容体急変後、ただちに転院などの措置を取らず、手術を続けた点に過失があると判断したとみられる。

 同クリニックは17日、「捜査には協力してきたが、麻酔方法は安全性を確認し、長年にわたり行っているもので、事故の原因にはなりえない。死因はクモ膜下出血による急性呼吸窮迫症候群ととらえている」とするコメントを出した。

 性転換手術に関し、学会のガイドラインや学内倫理委承認の手続きを経て実施する態勢を整えているのは、埼玉医大、岡山大、関西医大など少数。民間病院での手術の実態は不透明だ。

【石川隆宣、勝野俊一郎】

毎日新聞 2005年6月17日 18時13分
http://www.mainichi-msn.co.jp/kurashi/kenko/news/20050618k0000m040010000c.html


205.6.17.産経新聞 大阪夕刊
性転換手術で死亡立件へ 大阪府警 業過致死容疑、搬送遅れなど複合ミス

 大阪市北区の美容・形成外科「わだ形成クリニック」で平成14年2月、性転換手術を受けた東京都小金井市の会社員の男性=当時(35)=が術後に急死した問題で、大阪府警捜査一課と天満署は17日、麻酔の副作用で呼吸困難になった後も手術を続け、他病院への搬送が遅れたことなど複合的なミスが死亡につながったとして、業務上過失致死容疑で執刀した和田耕治院長(51)を近く書類送検する方針を固めた。

 性転換手術の死亡事故の立件は初めて。男性は心と身体で性が一致しない性同一性障害に悩んでいたといい、同障害の治療の在り方に影響を与えそうだ。

 調べでは、男性は14年2月25日、同クリニックで約5時間半にわたって受けた手術中に呼吸困難状態になって容体が急変、術後に搬送された別病院で翌26日午前6時35分ごろに死亡した。司法解剖などの結果、基準を上回る麻酔薬投与で呼吸が抑制され、肺水腫(しゅ)を起こしたことが死因とみられることが判明した。

 府警は、和田院長が容体急変後も挿管などで十分な気道を確保せずに手術を続行し、態勢の整った病院にすぐに転院させるといった措置を怠っていたと断定。こうした措置があれば、男性が助かっていた可能性が高いと判断した。

 調べに対し和田院長は「容体急変後も薬剤を投与するなど適正な処置をとったつもりで、放置していたわけではない」と過失を否認しているという。

 同クリニックは平成8年に開業し、医師は和田院長1人。14年1月13日にも、あごの骨を削る美容整形手術を受けた大阪市平野区の飲食店経営の女性=当時(39)=が死亡。府警は鎮静剤の分量を誤って投与した疑いもあるとみて捜査しているが、女性の遺族と同クリニックの和解が成立している。

 わだ形成クリニックの話 「麻酔の内容や方法については事故の原因となりうるものではなく、くも膜下出血を起因とする急性呼吸窮迫症候群の突然の発症を死亡原因ととらえている。今後も原因解明を求め、また事故とのかかわりについての当院なりの責任を明確にすべく、真摯(しんし)な姿勢で対応していく」
【2005/06/17 大阪夕刊から】
http://www.sankei.co.jp/news/050617/sha069.htm


2005.6.17.朝日新聞 関西
性転換手術後に急死、院長を書類送検へ 大阪府警


 大阪市北区の美容・形成外科「わだ形成クリニック」で02年2月、女性への性別適合(性転換)手術を受けた男性会社員(当時35)が手術後に急死した事件で、大阪府警は、執刀した和田耕治院長(51)が麻酔で呼吸困難に陥った男性に対し、適切な措置をとらずに死亡させたとして、近く業務上過失致死容疑で書類送検する方針を固めた。任意の調べに和田院長は容疑を否認しているという。

 捜査1課と天満署の調べでは、男性は心と体の性が一致しない性同一性障害で、02年2月25日に同クリニックで手術を受けた。手術開始の約3時間後に低酸素状態になって意識がなくなり、不整脈や心臓発作を起こして翌日、搬送先の別の病院で死亡した。司法解剖の結果、死因は肺に水がたまる肺浮腫だった。

 府警は、男性が呼吸抑制作用のある麻酔薬によって呼吸困難な状態に陥ったのに、和田院長が呼吸の確保を十分に行わず、さらに、速やかに救命設備のある別の病院に移送しなかった点に過失があると判断。また投与した麻酔の量に問題がなかったかどうかについても調べている。

 府警の事情聴取に対し、和田院長は「容体が変わった後も漫然と放置したわけではない。麻酔についても、ほかの患者と同様に投与し、問題はない」と主張しているという。同クリニックは17日午前、「麻酔内容、方法に関しては、安全性を確認し、長年にわたり現在も当院で行い続けているものであり、事故の原因となりうるようなものでは全くない」とするコメントを出した。

 ■性同一性障害GID) 体と心の性が一致せず、社会的、精神的に困難を抱える症状。1万〜10万人に1人の割合でいると推定される。日本精神神経学会が97年、ガイドラインを定めて医療の対象と位置づけ、04年7月には、手術を受けた独身の成人で、子どもがいないなどを条件に戸籍の性を変えられる法律が施行された。現在、ガイドラインに沿って埼玉医大や岡山大などで手術が実施されているが、精神療法、ホルモン療法を経てから手術となるため、手術までに2年以上かかるケースが多いという。このため、手術を待ちきれない患者たちが「わだ形成クリニック」に集まっていたとされる。
http://www.asahi.com/kansai/news/OSK200506170028.html

2005.6.17.日本経済新聞
性転換手術で死亡、大阪のクリニック院長を書類送検
 大阪市北区の美容形成外科「わだ形成クリニック」で2002年2月に起きた性転換手術後の死亡事故は、麻酔薬の副作用を起こした患者への不十分な処置などが原因だった疑いが強いことが17日までの大阪府警捜査一課などの調べで分かった。同課と天満署は和田耕治院長(51)を近く業務上過失致死容疑で書類送検する方針を固めた。

 性転換手術の死亡事故で刑事責任を問われるのは初めて。

 調べによると、死亡したのは性同一性障害を抱えた東京都内の男性患者(当時35)。02年2月25日、和田院長執刀で女性への性転換手術を受けた。手術開始後約3時間で、呼吸困難になるなど容体が急変し、翌日、肺に水がたまる肺浮腫などを引き起こして死亡した。

 和田院長は気道確保などの処置を十分に取らないまま手術を続行した疑いが持たれている。

 クリニックには患者の容体急変に対応する救命機器や入院施設はなく、設備がある他の病院へ転院させるなどの措置も翌日まで取らなかった。投与した麻酔薬の量も過剰だった可能性もあるという。 (11:35)
http://www.nikkei.co.jp/news/shakai/20050617AT5C1700417062005.html


2005.6.17.東京新聞
性転換で男性死亡 院長を書類送検
大阪 容体急変でも手術続行
 大阪市の美容・形成外科「わだ形成クリニック」で二〇〇二年二月、性別適合(性転換)手術を受けた男性=当時(35)=が死亡した問題で、大阪府警捜査一課と天満署は十七日までに、麻酔の副作用で容体急変後も手術を続け、他病院への搬送が遅れたことが死亡につながったとして、業務上過失致死容疑で、執刀した和田耕治院長(51)を近く書類送検する方針を固めた。

 調べでは、男性は〇二年二月二十五日、同クリニックで同手術を受け翌朝、死亡。捜査一課の調べで、死因は麻酔を基準量以上に投与した副作用で呼吸が抑制され併発した肺水腫と判明した。

 男性は手術中に呼吸抑制状態となったが、和田院長は手術を続行。救急搬送は手術の約五時間半後で、捜査一課は、迅速に気管挿管や転院などをしていれば男性が助かった可能性が高いと判断、院長の過失を認定した。

 和田院長は調べに対し「容体急変後も薬剤を投与するなどし、放置していたわけではない」と一部否認しているという。
http://www.tokyo-np.co.jp/00/sya/20050617/eve_____sya_____002.shtml


2005・6・17共同通信
性転換で死亡、書類送検へ 大阪府警、業過致死容疑

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 大阪市の美容・形成外科「わだ形成クリニック」で2002年2月、性別適合(性転換)手術を受けた男性=当時(35)=が死亡した問題で、大阪府警捜査1課と天満署は17日までに、麻酔の副作用で容体急変後も手術を続け、他病院への搬送が遅れたことが死亡につながったとして、業務上過失致死容疑で、執刀した和田耕治院長(51)を近く書類送検する方針を固めた。
 性別適合手術での死亡事故の立件はこれまで例がないとみられ、性同一性障害の治療をめぐる論議に影響を与えそうだ。
 調べでは、男性は02年2月25日、同クリニックで同手術を受け翌朝、死亡。捜査1課の調べで、死因は麻酔を基準量以上に投与した副作用で呼吸が抑制され併発した肺水腫と判明した。
 男性は手術中に呼吸抑制状態となったが、和田院長は手術を続行。救急搬送は手術の約5時間半後で、捜査1課は、迅速に気管挿管や転院などをしていれば男性が助かった可能性が高いと判断、院長の過失を認定した。
http://www.kahoku.co.jp/news/2005/06/2005061701000450.htm


(2005年6月17日3時19分 読売新聞)
性転換手術で死亡、大阪の形成外科院長を書類送検


 大阪市北区の美容・形成外科「わだ形成クリニック」で2002年2月、東京都内の会社員男性(当時35歳)が性転換手術を受けた後に死亡した事故で、大阪府警捜査1課と天満署は16日、執刀した和田耕治院長(51)による麻酔投与ミスなどの「過失の競合」が死亡につながったとして、業務上過失致死容疑で近く書類送検する方針を固めた。

 性転換手術に絡む事故が、刑事事件に発展するのは初めて。

 調べによると、男性は手術開始から約3時間後に容体が急変し、翌日搬送された別の病院で呼吸不全のため死亡した。遺体を司法解剖したところ、男性は麻酔薬の中毒症状で呼吸困難に陥った可能性が高いと判明した。和田院長から事情を聞いたところ、基準最高用量の約1・6倍の麻酔薬を急激に投与し、容体急変後も救命設備を持つ病院への転院などをせず、数時間、手術を継続していたこともわかった。このため府警は、院長の過失が重なったことが死につながった疑いが強いと判断した。

 和田院長は調べに対し、「過去の経験に基づき適切に麻酔薬を投与した。容体急変後も薬剤投与や呼吸管理を続けており、漫然と放置したわけではない」と過失を否定しているという。

 性転換手術は、日本精神神経学会が1997年、他に治療法がないなどの場合に限って認めるとの指針を策定。現在、埼玉医大と岡山大で手術が行われているが、学内の倫理委員会で承認を経て手術までに2年以上かかることなどから、待ちきれない患者が海外で手術を受けるケースも多いという。

 同クリニックは96年に開業。性同一性障害の患者らの間で「すぐに手術が受けられる」と口コミで評判を呼んでいたという。

(2005年06月17日 読売新聞)
http://osaka.yomiuri.co.jp/news/20050617p101.htm


2005.6.18.サンスポ

性転換手術の死亡事故で初の立件−“ヤミ手術”の落とし穴
 大阪市北区の美容・形成外科「わだ形成クリニック」で平成14年2月、性転換手術を受けた男性=当時(35)=が術後に死亡した問題で、大阪府警は17日、手術などでの複合的なミスが死亡につながったとして、執刀した和田耕治院長(51)を業務上過失致死容疑で近く書類送検する方針を決めた。性転換手術の死亡事故での立件は国内初。“公式”の医療機関が少ないため“闇手術”に走る患者は多いが、そこに「落とし穴」があると専門家は指摘している。



 府警捜査1課などの調べでは、都内の会社員男性は平成14年2月25日、同クリニックで約5時間半にわたって受けた手術中、呼吸困難状態になり容体が急変。術後に運ばれた別の病院で翌26日朝に死亡した。司法解剖などの結果、死因は麻酔を基準量以上に投与した副作用で呼吸が抑えられ、肺水腫を起こしたと判明した。

 府警は容体急変後も十分に気道を確保せずに手術を続けた和田院長が、設備の整った病院にすぐに転院させる措置を行っていれば、男性が助かった可能性が高いと判断。院長の過失を認定した。

 和田院長は調べに「これまで同じ方法で性転換手術をしてきたが、死亡した人はいない。容体急変後も放置していたわけではない」と否認しているという。男性は性同一性障害に悩んでいた。

 国内に1万人以上いる性同一性障害者。だが、日本精神神経学会ガイドラインに沿い、性転換手術を“公式”に行えるのは国内で3大学しかない。「圧倒的に受け皿が少ない」(医療関係者)のが現状だ。

 財政的負担も大きい。費用は保険適用外で“公式”だと250万−300万円。一方、3大学以外での“闇手術”なら100万円前後で済む。しかも、“公式”は治療開始から手術まで平均2、3年かかるため、手術を急ぐ人は敬遠する傾向があるという。

 しかし、安易な“闇手術”の危険性は高い。性転換手術に詳しい常楽診療所所長の日向野春総医師(64)によれば、性差で違う骨盤内の手術が最も難しいという。長時間かかるため、出血などに備えて執刀医以外にも麻酔科医や泌尿器科医らが不可欠。術後も排尿訓練などで約1週間の入院も必要。日向野医師は「ただ『カタチ』を変えるだけと考えている医師もいる。気軽に思わないように」と警鐘を鳴らす。

 府警は近く、和田院長を書類送検する方針。性転換手術の死亡事故での国内初の立件は、性同一性障害者の深刻な“悩み”も浮かび上がらせる結果となった。

★「麻酔は事故と無関係」病院側が文書で対応

 大阪府警書類送検の方針を固めたのを受け、「わだ形成クリニック」は文書で対応した。その中で「麻酔の内容や方法については事故の原因となりうるものではなく、くも膜下出血を起因とする急性呼吸窮迫症候群の突然の発症を死亡原因ととらえている」と主張している。同クリニックは平成8年に開業し、医師は和田院長1人。14年1月にも、美容整形手術を受けた大阪市平野区の飲食店経営の女性=当時(39)=が死亡しているが、女性の遺族と示談が成立している。


▼性転換手術
 心と身体の性が一致しない「性同一性障害」の重い人に、心の性に合わせて身体を整形する手術。性別適合手術ともいう。平成9年に日本精神神経学会が治療指針を制定。精神科医、形成外科医らの医療チームが診断から治療まで担当する。精神科医による診断後、ホルモン投与などを行い、倫理委員会の承認後に手術となる。埼玉医大が10年に初めて実施。現在は岡山大、関西医大の3カ所で約60例行われている。それ以外の機関での実態は不明。
http://www.sanspo.com/shakai/top/sha200506/sha2005061801.html


2005.6.17.
性転換手術での死亡事故 立件へ
過剰麻酔など過失重ね
 大阪市北区の美容・形成外科「わだ形成クリニック」で2002年2月、東京都内の会社員男性(当時35歳)が性転換手術を受けた後に死亡した事故で、大阪府警捜査1課と天満署は16日、執刀した和田耕治院長(51)による麻酔投与ミスなどの「過失の競合」が死亡につながったとして、業務上過失致死容疑で近く書類送検する方針を固めた。

 性転換手術に絡む事故が、刑事事件に発展するのは初めて。

 調べによると、男性は手術開始から約3時間後に容体が急変し、翌日搬送された別の病院で呼吸不全のため死亡した。遺体を司法解剖したところ、男性は麻酔薬の中毒症状で呼吸困難に陥った可能性が高いと判明した。和田院長から事情を聞いたところ、基準最高用量の約1・6倍の麻酔薬を急激に投与し、容体急変後も救命設備を持つ病院への転院などをせず、数時間、手術を継続していたこともわかった。このため府警は、院長の過失が重なったことが死につながった疑いが強いと判断した。

 和田院長は調べに対し、「過去の経験に基づき適切に麻酔薬を投与した。容体急変後も薬剤投与や呼吸管理を続けており、漫然と放置したわけではない」と過失を否定しているという。

 性転換手術は、日本精神神経学会が97年、肉体的な性と脳が認識する性とが一致しない「性同一性障害」の治療手段として認めるとの指針を策定し、埼玉医大と岡山大で手術が行われている。しかし、学内の倫理委員会での承認など手術までに2年以上かかるため、国内に数千人いるとされる患者の中には海外で手術を受けるケースもある。同クリニックは患者らの間で「すぐに手術が受けられる」と評判になっていた。和田院長も、読売新聞の取材に対し、開業以来の9年間に300件以上の性転換手術をしたことを認めている。

(2005年6月17日 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/iryou/news/iryou_news/20050617ik03.htm