「本当の自分」自然に アジアン・ビューティー(4)

http://www.asahi.com/international/weekly-asia/TKY200504260175.html


2005.4.26.朝日新聞「本当の自分」自然に アジアン・ビューティー(4)
 タイで「レディーボーイ」は、街で見かける日常の存在だ。女性になりたい男たちが、自由にそれぞれの美を競う。そのおおらかさにひかれてか、世界中から性転換や美容整形を求める男女が訪れる。一方で、特産のハーブなどを使ったエステやスパも外国の女性客に人気だ。多様な美の欲求を受け止めるタイは今、国を挙げて「美の大国」をめざす。

■多様な願望包み込む

 プロイはバンコクの私大に通う19歳。170センチ、49キロ。白い肌、長い黒髪、ピンクのマニキュア。花柄のスカートが似合う。「男だった」と気付く人は少ない。

 幼いころから人形遊びが好きで、自分の体の性に違和感を感じ続けた。「女になりたい」との願望はやまず、両親を説得。18歳で性転換手術を受けて、美をみがく日々が始まった。週2回のホルモンの注射。毎朝2時間の入浴で体の隅々まで手入れする。ビタミン剤も欠かさない。

■女性以上に

 タイでは、女装趣味の人から、体と心の性が一致しない性同一性障害の男性までを含めて「レディーボーイ」と呼ぶ。

 昨年11月、パタヤで催されたレディーボーイのコンテストで、各国の「美女」を抑えて優勝。化粧品会社のCMに起用された。最後にレディーボーイと分かる仕掛けだが、広報担当者は「女性以上に女らしいと、評判は上々」と話す。

 政府観光庁後援の「津波被災募金使節団」に俳優やミスタイらとともに選ばれ、2月に英国で慈善コンサートに参加した。プロイは「女性としての美しさを求めることは、本当の自分を取り戻すこと」と話す。

 性転換する。胸や顔だけを整形する。顔には手をつけない……。「彼女」らの生き方は様々だが、社会はおおらかに受け止めているようだ。取材で会った人の多くは10代で化粧を始め、言葉遣いも変えた。でも、学校で「男らしさ」を強制されたことも、いじめもなかったと口をそろえる。

 ショーの踊り子といった職のほか、デザインや美容などの業界で働く人も多い。多くの百貨店の化粧品売り場でも働く。女性客の評判が良いからだ。カセサート大のアムポーン社会科学科長は「仏教が根付くタイ社会は、異質な存在に寛容だ。芸能界だけでなく元スポーツ選手や学者にもいることで、人々は『一つの性のあり方』と自然に受け入れている」と話す。

■27億円市場

 バンコク中心部の美容外科。02年に約240人だった外国人患者の数は03年に約730人、昨年は約1400人に。米国や日本、韓国が多く、中東やアフリカからも来る。約7割が女性だが、性転換手術を受けた男性が昨年36人いた。

 一部の病院は、日本語や韓国語の通訳を雇ったり、ウエブサイトを設けたり。価格は日本に比べ数分の一ほど。ある医師は「ここ5年で患者の9割近くが外国人になった。技術への評価に加え、性転換や美容整形への開かれた社会意識が人を呼び込む面もある。市場が毎年、倍々の勢いで拡大、今は10億バーツ(約27億円)ほどだろう。今後も伸びる」と話す。

 他方、美容手術にからむ苦情も出ている。医療審議会には昨年、「事前説明と違う」などの訴えが約60件あったという。形成外科医協会は性転換手術について「手術するのが適当」という精神科医の診断書が必要との規定を定めている。

 タイは、温浴や美顔、マッサージなどでリラックスするスパやエステでも外国人を引きつけている。日差しが強烈なため、肌を守る製品の開発が進んでおり、天然ハーブの美容製品、果物などを素材にした美白商品などが売りだ。

 日本でも数年前から「ハーブの国」「美白の大国」と宣伝され、女性誌もスパを特集、大手旅行社はツアーに組み込む。JCBプラザ・バンコクはカード利用者にスパやエステの割引・予約サービスを実施。「女性の約3割が利用する。スパだけを目当てに年に何回も来る人も」という。

 シンガポールの民間調査機関「インテリジェント・スパ」によると、タイには約320のスパがあり、03年7月からの1年間に約360万人が利用。約8割が外国人観光客で、前年比で43%の伸びだった。

 タイ政府も海外への売り込みに本腰を入れ始めた。商務省が関連企業を引き連れ、日本で展示商談会を数回開催。今年は20カ国以上で展示会を企画する。

 昨年12月には、国立遺伝子・生物工学センターが資生堂と共同研究に調印した。豊富な植物資源と伝承知識を、日本の技術と組み合わせることで、より付加価値の高い魅力的な化粧品の開発をめざすという。

 せっけんやスキンケア製品の輸出は02年以降、毎年20%前後伸びている。「観光に続き、我が国を『美の大国』として売り込む」と担当者の鼻息は荒い。 (貝瀬秋彦)