性別違和者、小児愛者、フェティシストにおける性的対象配置の障害6

8月30日の論文翻訳(http://d.hatena.ne.jp/annojo/20060830/p1)、
9月1日の論文翻訳(http://d.hatena.ne.jp/annojo/20060901/p2
9月2日の論文翻訳(http://d.hatena.ne.jp/annojo/20060902/p1
9月3日の論文翻訳(http://d.hatena.ne.jp/annojo/20060903/p2
9月4日の論文翻訳(http://d.hatena.ne.jp/annojo/20060904/p1)続き。今日で最後。


考察

女好きの男に見られる、フェティシズム、トランスベスティズム、autogynaephiliaのようなものは、同性愛者でも同様に見られるか?
Zavitziatianosの症例:同性愛者で、特定の衣服を着て、その姿を鏡で見ながらマスターベーションする人。これは「homeovestism(同性装症http://d.hatena.ne.jp/annojo/20060720/p2)」で、異性愛者のトランスベスティズムに相当する。
同性愛者で、autogynaephiliaに相当するものは、はっきりしない。
しかし、Zavitziatianosの症例では、この男性は、軍服姿になりマスターベーションするのだが、「実際に軍人の同性愛者と性交渉をしたときは、まるで自分がその人になりたいように感じた。」と言っている。


Blanchardの推論:人間は性的興奮の対象を、①内部でなく外的なものに、②表面的特徴ではなく本質的なものに、もつようにできている。①が障害されると「対象同一性倒錯」になる。②が障害されるとフェティシズムになる。
その対象が、大人の女性だったり、小児だったり、同性男性である場合、それぞれに対応する障害となる。


Rohlederの説:「automonosexual」(自己単独性愛)。相手には魅力を感じず、自分自身に性的魅力を感じる。たとえば鏡に映った自分にキスをしたりする。ここでは、他者に性的魅力を感じるメカニズムが障害されている。


これにて翻訳おしまい。

性別違和者、小児愛者、フェティシストにおける性的対象配置の障害:全部

これまでの6回の翻訳、ひとつにまとめました。


Freund K,とBlanchard R.の
「Erotic target location errors in male gender dysphorics, paedophiles, and fetishists」
(性別違和者、小児愛者、フェティシストにおける性的対象配置の障害)という論文が大変興味深い。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?cmd=Retrieve&db=pubmed&dopt=Abstract&list_uids=8481752

以下、適当にかいつまんで翻訳。


Geynaephilia(女好きの男)の、対象配置の障害として、フェティシズム、トランスべスティズム、autogynaephiliaがある。


同じようなことが、小児愛者のなかにも、いえる。
1.Autogynaephilesに対応するもの:自分自身を小児だと想像し興奮する。
2.トランスベスタイトに対応するもの:性的興奮目的で小児の服を着る。こういうものは「cisvestism」と呼ばれることがある。(訳注:cisvestismは日本では、しられていない言葉。珍装?/コスプレ?して性的に興奮するもの)
3.フェティシストに対応するもの:小児の服装に性的魅力を感じるもの。


Autogynaephiliaの著しいものが「gender identity disorder(性同一性障害)」と呼ばれるように、小児になりたい気持ちが著しいものは「age identity disorder(年齢同一性障害)」と呼ぶべきだ。
両者とも性的魅力を感じる対象に、自分自身もなりたいと思っている。
両者をあわせて「erotic target identity inversions(性的対象同一性倒錯)」と命名する。


Paedophilic target identity inversion(小児性愛対象同一性倒錯)
症例1.
37歳男性。少年のペニスをズボンの上から触って、告訴され、性欲を減らしたいと希望し受診。形成外科医受診も希望。理由を尋ねると、割礼について語りだす。「自分で判断できない子供に対して割礼をするのは、犯罪だ」と興奮しながら話す。「子供のときのように、亀頭を覆ってた、包皮を再び作ってほしい」という。この手術が可能な形成外科医を紹介しなかったところ、ほかの形成外科医を必死に探し出した。この患者は、自分の体の部分的変更だけを望んでいるので、豊胸術だけを求めるトランスベスタイトと類似の臨床像である。

症例2と3
2人とも少年との性行為経験あり。2人とも男の子の体操着を着て、少年になったことを想像しながらマスターベーションする習慣あり。

症例4
男女両方の子供に性的魅力を感じる18歳男性。性的な空想をしているとき、10歳の少年のように自分を感じる。

症例5
22歳男性。オムツフェチで、男女両方の子供に性的興味あり。しかし、子供に惹かれる理由は、子供がオムツをはいているから。オムツフェチプレイとしては、オムツをはき、オムツの中におしっこをし、マスターベーションをする。一日中オムツをはくこともあり。ときどき、わざとズボンからオムツをはみださせ、人に気づかせるようにする。(このプレイは露出的なトランスベスタイトと似ている。彼らは、見知らぬ女性にパンティーやブラジャーを着ていることを見せて喜ぶ。)彼はオムツをはいているときは、赤ん坊のように自分を感じる。

症例6
23歳、異性愛の小児愛者。特に子供の下着に関心あり。彼はオムツをはいてお風呂に入る習慣がある。女性のベビーシッターに犯される子供になる、という性的空想も持つ。この性的空想の中では、ベビーシッターは自分の小さな娘を連れてきて、彼はその女児の後ろから、股間にペニスをこすりつけるという空想もある。

コメント
女好き男と、小児愛者に見られる病理現象の共通項には、ひとつ考慮すべき違いがある。年齢同一性障害においては、性同一性障害においての「性転換症」のような、体まで変えたいという強烈なものはなかった。明確な理由は不明だ。年齢同一性障害においては、その欲求に限度があるのかもしれない。あるいは単に、外科技術的に無理だから、あきらめているのかもしれない。


対象同一性倒錯の伴わない、小児性愛フェティシズムの症例

症例1
26歳男性。女児のスカートに、自分のウンチをこすりつけること10回にて逮捕。4歳のとき、オムツをしていたことを思い出した。それ以来、オムツをはいて、その中にウンチとおしっこをするようになった。そうすると気分がよかった。11歳のときより、そうすると性的に興奮するようになった。
これは、多くのトランスベスタイトと似ている。彼らは思春期前は女装することで気分がよかったが、思春期になると、女装で勃起し射精するようになる。

症例2と3
2人とも小児愛者で、女児のパンツにフェティシズムがある。

症例4
17歳男性。知的には境界域(やや知能が低いということ)。子供の雪遊び着を盗んでは、それをつかって、公衆の面前でマスターベーションをする。自分自身を子供と想像しているかどうかははっきりしない。

症例5
22歳男性。彼も知的には境界域。7歳の女児パンツを着用。女児への性的いたずらもあり。

コメント
第一の症例は、フル女装して性的に興奮するものの、自分自身を女性だとは想像しないという、トランスベスタイトに対応する。
残りの症例は、個別のアイテムにフェティシズムがあるものに対応する。


人間ではない対象の性的対象配置の障害

次のケースは重篤さにおいては、性転換症に匹敵する同一性の障害がある。
症例
25歳独身男性。知能はやや低い。主訴は自分を漫画の犬だと想像すること。この想像が最近強まり、主観的にも苦痛になっている。漫画キャラの犬だと想像すること、自分が実際そうではないという事実、さらにそういった状況への罪悪感、すべてが仕事の差し支えになっている。
6歳まで彼と双子の兄は、一緒にぬいぐるみの動物で遊んでいた。ぬいぐるみで人間のようにごっこ遊びをしていた。ふたりで、ぬいぐるみの声を出していた。
11歳ころ、思春期に達すると、二人はぬいぐるみでのセックスごっこもし始めた。ぬいぐるみどうしで、セックスをさせるとき、ふたりとも勃起した。しかし、射精はしなかった。この遊びは20歳まで続けられた。
彼のごっこ遊びは、漫画キャラの動物たちの世界へと発展した。彼はこの世界を「空想世界」と呼んだ。主役はパピー・スミスというキャラだ。パピー・スミスは泳いだり空を飛んだりもできる。ほかのキャラもいろいろいて、それぞれのぬいぐるみもあった。
彼の性的行動は、この空想世界および実際のぬいぐるみと、いつもつながっていた。マスターベーションのときのお好みの空想は、自分がパピー・スミスで、自分がパピー・スミスの姉妹からかわいがられる、というものだった。実際には、ぬいぐるみも使ってマスターベーションをしていた。ぬいぐるみはパピー・スミスと、姉妹のと両方を使った。
この患者の経過は、多くのトランスベスタイトと非常に似ている。彼らは最初は、フェティシスティックな女装から始まり、だんだんにずっと女性でありたいと想像し始める。


女好きマゾの自分が幼児であるという空想
鑑別で重要なのは、真の「性的対象配置の障害」と、表面的に類似したパラフィリアとの区別である。たとえば、マゾの男で、自分が小児であると想像するものがいる。これは支配的な女性に屈服したいという願望の現れである。

症例1
35歳男性。マスターベーションについての相談で来院。マスターベーションのときは、まずオムツをはき、そこにおしっこをする。そして何時間か、そのまま、はき続け、その後射精する。そのとき、空想としては、自分は赤ん坊で、母親から怒られて、洗濯機の中に放り込まれる。過去には別のマゾ的経験がある。最初は女性の古着を着ていたが、のちに、じぶんのだめぶりが強調されると思い子供の衣類を使い出す。12,3歳のころより、女性のブラジャーやパンティーを着用し、自分を縛ったり、首吊りをしたりしていた。

症例2
31歳男性。主訴はマゾであること。10歳の男児であると想像し、母親の女友達から、ブラシでケツをたたかれ、女子の友達がそれを見て笑う、というのが、マスターベーションのときの性的空想。

症例3
27歳男性。保育園に侵入し逮捕される。かれはオムツをはき、保育園に入ると、その中でおしっことウンチをする。オムツが汚れると、自ら電話で警察に通報。部屋の電気をつけ、誰かが来るのを待つ。彼の願いは、誰か女性が来て、お漏らししたことで、彼を叱り、オムツを交換してくれることだった。

コメント
上にあげた症例は、自分を子供だと想像する小児愛者と、自分を子供だと想像する、大人の女性が好きなマゾ男の違いを示している。小児愛者では、自分の性的対象である、子供へと近づいていく。マゾ男では、自分の性的対象である大人の女性からは離れていく。特に力とコントロールの点で離れていく。これはオムツをしたり、お漏らしすることで、自分のだめ振りを強めることで、女性から離れていく。このようなことから両者のメカニズムは違うと推測する。


考察

女好きの男に見られる、フェティシズム、トランスベスティズム、autogynaephiliaのようなものは、同性愛者でも同様に見られるか?
Zavitziatianosの症例:同性愛者で、特定の衣服を着て、その姿を鏡で見ながらマスターベーションする人。これは「homeovestism(同性装症http://d.hatena.ne.jp/annojo/20060720/p2)」で、異性愛者のトランスベスティズムに相当する。
同性愛者で、autogynaephiliaに相当するものは、はっきりしない。
しかし、Zavitziatianosの症例では、この男性は、軍服姿になりマスターベーションするのだが、「実際に軍人の同性愛者と性交渉をしたときは、まるで自分がその人になりたいように感じた。」と言っている。


Blanchardの推論:人間は性的興奮の対象を、①内部でなく外的なものに、②表面的特徴ではなく本質的なものに、もつようにできている。①が障害されると「対象同一性倒錯」になる。②が障害されるとフェティシズムになる。
その対象が、大人の女性だったり、小児だったり、同性男性である場合、それぞれに対応する障害となる。


Rohlederの説:「automonosexual」(自己単独性愛)。相手には魅力を感じず、自分自身に性的魅力を感じる。たとえば鏡に映った自分にキスをしたりする。ここでは、他者に性的魅力を感じるメカニズムが障害されている。