『キンゼイ報告 女性篇』

映画に便乗し関連文献の貼り付け。


精神医学文献事典,p127、2003、弘文堂

精神医学文献事典

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キンゼイAlfred Charles Kinseyほか
『キンゼイ報告 女性篇』[1953]


針間克己


 1948年の『キンゼイ報告 男性篇』に引き続いて発行された、人間の女性のセックスに関する最初の総合的な経験的研究で、1938年から1949年の間に行われた7789人の米国人女性への個人的面接に基づいている。この報告の中心的研究者であったキンゼイは、元々は昆虫の研究を専門とする動物学者であった。彼は学生からの人間の性行動に関する質問を受けた際に、既存の知識が貧弱で科学的妥当性に欠けることを見いだした。そこで、生物学者として彼が用いてきた手法を人間にも適用し、1937年より多数の被験者を面接により集め統計的に解析した。集まった女性被験者は7789例であったが、統計解析は刑務所に服役中の女性915例と白人以外の女性934例を除外し、囚人でない白人女性5940例に基づいておこなった。
 結果として得られた女性のセックスに関するデータには例えば以下のようなものがある。約62%がマスターベーションを人生において経験し、そのほとんどがオーガズムを伴う。50%が結婚前に性交経験がある。40歳までに19%が同性愛経験をする。1〜3%が完全な同性愛傾向を有する。成人女性の3.6%が動物との性的接触経験がある。生理的な性反応に認められる基本的な要素は男女間において差異はない。また、データ全体からは、女性のセックスの多様性と広がりが示された。
 キンゼイ報告は、セックスがいかにあるべきかという従来の情緒的信念に対し、実際はどうであるかという客観的統計を示した。その結果、その後の性科学発展の礎となり、また性革命や女性解放運動に多大な影響を与えることになった。